対人援助サービスの質を左右するのは、人材であることは間違いのないところだ。しかし良い人材とは単純に知識と技術だけを持つ人であるとも言い切れない。

なぜなら介護サービスの品質を保持するためには、一人一人の従業員の「意欲」や「やる気」というエッセンスが重要になるからだ。

人に向かい合う仕事にはマニュアルだけでは対応できない要素があり、利用者の感情に即した臨機応変の姿勢が求められる。そうであるがゆえに日々の業務の中でモチベーションを保ち、常に利用者の感情に向かい合いながら、想像力と創造力をもって対応を変える必要があるのが介護の仕事である。

そのためには人に対する興味と、人の暮らしを豊かにしようとする動機づけ必要になる。そうした興味や動機づけを持たない人は、頭が良くて技術を持っていても、「支援する人の暮らしぶりや心を豊かにする」という結果を出すことができないのである。

そもそも支援を受ける側の立場から考えれば、支援者の思いやりこそが、自分を支えてくれる大きな力だ。

支援知識があり支援技術が高くても、自分に対する愛情が全く感じられない人によって、毎日の生活を成りたたせなければならないとしたら、支援者に媚を売り、毎日気を使いながら遠慮しつつ生活支援を受けなければならない。それは多くの場合、苦痛と屈辱以外の何ものでもないだろう。

勿論、介護支援を必要になった人が、サービスを利用する顧客だからと言って、その立場をひけらかす必要はないし、上から目線でサービス提供者に指示・命令することが客としての正しい態度ともいえない。そしてサービス提供する側が顧客に対して卑屈になる必要もない。

どちらもお互いを人として敬うということが求められ、サービス提供側には顧客に対する相応のマナーが求められるだけである。

その時に、お互いが人としての愛情を持ち合い、介護支援を受けなければ暮らしが成立しないというハンデキャップを持つ人に対しては、サービス提供側が、「人に対するやさしい目線」から、様々な気づきと配慮の気持ちを持つということは、ごく当たり前のことではないだろうか。

対人援助に必要なものは、正しい知識と適切な援助技術であることは言うまでもないが、対人援助は機械を相手にしている仕事でもなく、単に製品を生み出す仕事でもないということを忘れてはならない。感情のある人に向かい合う仕事だからこそ、知識と技術に加えて、愛情というエッセンスが求められるのだ。

そうした人間愛につながるものが、人に対する興味と、人の心を豊かにしたいという動機づけである。

そうした人に対する興味や、人の心を豊かにしようとする動機づけを生み出すために、モチベーションが高まる組織風土が重要になり、どういう職場がそうした組織風土を手に入れることができるのかを考えることは、事業経営上も非常に重要になる。

ただし本来モチベーションとは、自らの内面の問題であり、誰かに与えられるものではない。それは自らの精神活動としての気持ちの持ちようの問題であり、所属する事業者が何とかしてくれると考えるのは間違いである。モチベーションの低下を、すべて人のせいにする傾向のある人に、良い仕事ができることはないと言い切ってよいだろう。

しかし従業員の精神活動が高まる環境を整えることは組織として必要なことで、そうした意識を経営意識として高めることは、従業員が働く環境に好影響をもたらし、従業員自らが精神活動を高め、仕事に対するモチベーションを維持・向上させ得る重要なファクターになるであろう。

介護福祉士養成校の学生が介護職員を目指す最大の動機は「人の役に立つ仕事をしたい」というものだ。

それは介護という職業が「人の幸福」と深く関わっていると考え、人の生活の質の向上に結びつくことにやりがいを感じるという意味である。

しかし現実の介護サービスの現場で、この当初の動機づけが失われていくことが燃え尽きや離職に繋がっている。その理由は何だろうか。志の高い職員ほど理想とは程遠い現実に嫌気がさして、「人の役に立てる職業だと思って選んだのに、人の役に立つことができない」・「利用者への対応が流れ作業になってしまっている」・「こんなやり方が、利用者のためになっているとは思えない」という理由で辞めていくのだ。

つまり利用者不在のサービスが提供され、人の暮らしを豊かにするという結果が二の次にされている職場であるほど、やる気のある職員のモチベーションは低下するのである。現場の状況に疎い管理者が、利用者の生活の視点のないところで、利益優先の経営に終始したときに、本来必要とされる人材となり得る職員のモチベーションが下がり、離職してしまうとしたら、それは人材不足が叫ばれる今日においては最大の経営リスクともいえる。そうした環境を変えることこそ、職員のモチベーションが維持できる職場環境につながっていくのではないだろうか。

介護事業であっても収益を挙げない限り安定した経営はできないのであるから、従業員にも収益を挙げる方法を示して、それに向けて職場が一体となって取り組みを行うことは必要不可欠である。しかし対人援助であるという特性と意味を見失って、利用者の人間性を損ない、それらの人々の苦痛や悲しみを無視して、人を踏み台にして利益を上げる場所に、人材は張り付かないのだ。

対人援助の質と収益は相反するものではない。高品質なサービスを提供することが、各種加算を算定しることにもつながっていく。そうしたポジティブに着目しながら、サービスの質を担保し、利用者の福祉の向上という結果につながるサービスを提供できる職場とする必要がある。高品質で人の暮らしぶりを豊かにするサービスを目指すという基盤づくりを行って、そのために必要な支援方法をきちんと指導できる現場リーダーを育成することが大事だ。

そうしたリーダーが中心となって、職場内にOJTを中心にした新人教育のシステムが整備されていて、新人職員が知識や技術を不安なく獲得し、それが日常のケアサービスと結びつくという結果が求められる。さらにスキルアップシステムが構築されていることが職員のモチベーション維持・向上には不可欠である。

介護福祉士養成校の学生が、実習先で抱える不安は、きちんと自分が介護をできているか技術指導をして評価してくれる人がいないというものなのである。それはそのまま就職先での新人教育時の不安にも共通している。

そういう不安を与えない職場を創るためには、根拠ある教育指導ができる現場リーダーを育て、そのリーダーに権限を与えながら、指導力を発揮して、若い職員を育成できる組織とすることが何より求められているのである。

制度がどうあれ、利用者の生活の質の向上に役に立ちたいという「職員の思い」が実現できる職場作りが、従業員のモチベーションを高め、定着率を向上させ、人材不足に陥らない職場の条件となり得ることを決して忘れてはならないのである。

※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・masaの最新著作本「介護の誇り」は、こちらから購入できます。