医療機関に入院した高齢者が、在宅復帰するためにリハビリテーションを行う施設として誕生し、医療機関と自宅をつなぐ中間施設と呼ばれて老人保健法に位置付けられた、「老人保健施設」(以下、老健と略)は、2000年4月以降、介護保険法に位置付けられる介護保険施設の一つとなった。
主管する法律が老人保健法から介護保険法に変わった後の老健は、利用者の在籍期間が長くなった際に、収入が減るというルールがなくなったことから、一部の施設では在宅復帰率が著しく低下し、中間施設としての機能不全が懸念される状態がみられた。
そこに大ナタを振るったのが、2002年8月に老健局長に就任した中村秀一氏である。
中村氏は老健局長に就任する直前に、医療保険と医政を担当する厚生労働省大臣官房審議官として、戦後初めて診療報酬をマイナス改定した剛腕として評判が高かったが、老健局長就任後もその剛腕を振るって、私的諮問機関を立ち上げて、「2015年の高齢者介護」をまとめ上げたことでも知られている。
その中村氏が局長就任後最初に批判したのが、「在宅復帰率の低い老健」であり、「在宅復帰機能のない老健は看板を下ろせ」として様々な改革を迫った。その際に在宅復帰が進まない理由の一つとして、在宅療養支援機能が低いという地域事情が挙げられたところから、老健施設自体にも在宅療養支援機能を持つ必要があるとして、2003年〜老健施設から訪問リハビリテーションを行うことを可能にしたのである。
つまり老健の訪問リハビリテーションとは、単に併設事業として運営可能という意味合いではなく、老健の基本機能として実施することが求められたものなのである。よって老健の訪問リハビリは、老健から在宅復帰した人、その予定がある人に対して必要な支援機能として、「実施しなさい」という意味合いが濃いものであるといえる。当然、老健併設の通所リハビリテーションも同じ機能が求められており、単なる併設事業という括りで考えてはならないのである。
さてそのような経緯を踏まえて、2017年に地域包括ケア強化法が改正された後、(介護保険法第8条第28項)に示されている老健の定義が、「介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、 施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その 他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設。」<平成29年6月2日公布、平成30年4月1日施行>と変更されたのである。(緑色の部分が付け加えられた文章。)
これにより老健は、在宅復帰・在宅療養支援のための地域拠点となる施設であり、かつリハビリテーションを提供する機能維持・改善の役割を担う施設として法的に位置づけられたことになる。
さらに地域包括ケア強化法改正では、新たな介護保険施設として介護医療院が創設されている。これにより介護療養型医療施設の廃止後の転換先として創設された「療養型老健」は、その歴史的な使命は失われたと言って過言ではないだろう。
そのため本年4月からの介護報酬改定では、「療養強化型老健」の区分が廃止され、「療養型老健」に一元化された。これによって療養強化型を算定していた施設は、基本サービス費が下がることになった。
さらに介護療養型老人保健施設から介護医療院に転換する場合について、療養室の床面積や廊下幅等の基準緩和等が図られているのだから、将来的に老健施設から療養型という冠がついた分類はなくなっていく方向であると予測される。
また療養型以外の老健は、「在宅復帰・在宅療養支援等指標」によって区分されることになり、そのポイントが20未満の老健は「その他」に区分され、基本サービス費が前年度と比較して概ね2%減算される他、短期集中リハビリテーション実施加算など14の加算が算定できなくなった。これは実質ポイント20未満のその他型老健の事業撤退を促しているルールである。
もしかすると次の報酬改定時には、「その他」の区分自体が消滅し、一定ポイント以下の老健は、報酬算定不可=事業撤退、という大ナタが振るわれる可能性だってゼロとは言えないのである。
また「在宅復帰・在宅療養支援等指標」によるポイント区分が、未来永劫 20ポイントと60ポイントを基準に区分されると考えるのも間違っている。このポイントは法改正しなくとも変えられるために、国の考え方一つで引き上げが可能なのである。20ポイントぎりぎりで基本型老健の基準をクリアしている施設は、ホッとしている暇などなく、次の改訂で最低ポイント基準が引き上げられても困らない準備が必要だ。
また4月の報酬改定では、在宅復帰率が50%に達していなくとも強化型が取れるルールとなっているが、これは老健の在宅療養支援機能を評価したものであり、老健の機能が施設完結型ではなく、地域に向けたものであることを十分理解しなければならない。・・・この意味が分かるだろうか?
現在、在宅強化型老健の報酬を算定している施設の中には、入所条件として一定期間後の退所を条件としている施設がある。そうした老健入所後のリハビリテーションの効果や予後に関係なく、利用者を一定期間を経たというだけで退所させ、退所先の確保も利用者に責任を押し付け、退所後のフォローも全く行わない老健が存在する。次の改訂では、こうした在宅療養支援に無関心な老健に鉄槌を振るう改正が行われるかもしれない。
老健関係者は、そのこともしっかり理解すべきである。
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