伝統的な日本の地域社会では、向こう三軒両隣の関係性が保たれ、そこではサービス業も常連客が顧客の中心で、客を迎えるためのマナーよりも馴染みの会話が求められる傾向が強かった。

しかし地域における住民間の人間関係の希薄化が進むにつれて、そこにおけるサービス業に求められるものにも変化がみられ、接客は馴染みや親しみより、一人一人のお客様への丁寧なもてなしが求められるようになった。

それとともに「馴染みと親しみやすさの接客法」は、個人の資質で左右され、場合によっては乱暴で馴れ馴れしく、ずうずうしい客対応に変化するという性質が明らかにされるようになった。そのため個人商店も、大手チェーン店の接客技術を取り入れるようになった。

今、介護サービスを利用する顧客の多くが、そうした接客に慣れ親しんだ人々なのである。

そのため僕は日ごろから、介護事業においてもサービスマナーが必要だと主張して、それに関する講演も行っている。僕が提唱する「介護サービスの割れ窓理論」も、サービスマナーの基盤となる、「言葉遣い」に関する理論である。

そんなこともあり、世間が3連休だった先週土曜日から昨日にかけて、僕は10/5に飯田橋レインボービルで実施される、「東京都社会福祉協議会主催 サービスマナー研修会」のための講演スライドづくりを行っていた。同会では武蔵野大学の岩本先生の「高齢者福祉施設におけるサービスマナー研修会」を毎年行っているが、10/5はそれにつなげる露払い役の研修会という位置づけで、マクロの視点から介護事業者におけるサービスマナーの必要性を説くものである。

しかし東京都社会福祉協議会のように、サービスマナーの研修を計画的・継続的に行っている団体は他にほとんどないといってよい。

それは介護事業の職能団体にも、介護事業経営者にも、サービスマネーを確立する動機づけがないか、その意識に欠けるという理由ではないかと思えるが、これは由々しきことである。

時代の変化は、介護サービス事業の事情も大きく変化させ、顧客確保に苦労しない介護事業はなくなりつつあり、待機者であふれていた特養でさえ、営業しないと空きベッドが生ずる状態になりつつある。

そんな中で、今後介護サービスの顧客となる中心層は、団塊の世代の方々となっていくが、それらの方々は高度成長期の日本経済を支えてきた世代である。その世代の方々が大きな塊であるからこそ、団塊の世代に売れる商品を開発すれば、ほかの世代に売れなくとも儲けることができたという意味では、あらゆる場面でニーズが最大限に配慮されてきた世代であり、顧客として手厚く遇されてきた世代なのである。

そういう世代の人々から、どうやって選ばれるのかということは、介護事業者にも求められる視点なのである。

別の角度から考えると、いつまでも介護事業者が利用者に対して「ため口」で接することが親しみやすさだと勘違いする場所では、サービス提供者の上位意識がなくならず、施し意識が抜けない状態の中で、感覚麻痺と不適切対応がはびこり、それが虐待につながっていく。そのことは大きな経営リスクなのである。

先日も熊本県のグループホーム「ゆうしん三丁目」で虐待事件が発生した。入所者の88歳の女性を殴って死亡させたとして、介護職員の男性(49歳)が傷害致死容疑で逮捕されているが、被害者は腹部を殴打されて腹部内で内出血を起こし、腹部内の出血性ショックで死亡したという信じがたい事件が起きている。こうした事件につながる行為も、サービスマナーのかけらもない対応に終始していることが根本原因である。

このような事件が起きると、その事業者は経営継続が困難になりかねない。今現在、経営状態が良好で、業績が順調に右上がりである事業者であっても、こうした事件が起きた途端、経営継続が難しくなることは、介護サービス大手のメッセージ(岡山市)の事例が証明している。

つまり介護事業者においてサービスマナーを確立することは、職業倫理や顧客に対する礼儀という意味合いを超え、事業戦略上必要不可欠な職員教育になりつつある。労務管理としてそれができない事業者は廃業への一途をたどり、サービスマナーを持たない職員は、業界で職を続けても底辺の収入しか得られないのである。

介護事業経営者は、そうした意識をしっかり持って、職能団体がサービスマナー研修を実施しているならば、積極的に職員を参加させるとともに、できれば事業者の内部研修として、全職員を対象に最低年1回程度は、サービスマナー研修を開催すべきである。

そうした研修には、声をかけていただければいつでもお手伝いしたいと思っている。

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