先日、講演依頼を受けている機関の担当者と、講演の打ち合わせをメールでしていたところ、講演テーマに関連して質問を受けた。それは介護施設の看取り介護に関する質問で、その内容とは以下の通りである。
>施設の方からの話で、「看取りをすると決めていても、実際に看取りをする際にパニックになり、職員が救急車を呼んでしまうこともある」と伺いました。施設で看取りをしていく中で救急搬送のことについて、どのような取り決め等をされているのかお聞きできればと思っています。
この質問をいただいて僕が最初に感じたことは、実際に介護施設で「看取り介護」を行っているケースで、このような状況があるとしたら、まだまだ看取り介護とは何ぞやという基本理解ができていないまま、看取り介護と称した「低品質ケア」を実施している施設があるのだなということである。
そこで僕は次のような回答をした。
「そもそも救急救命と看取り介護は相反するもので、救命処置をとらないのが看取り介護の原則ですから基本的な看取り介護の理解ができない状態で、加算をとるためだけに対応している施設がそのような状態になります。まずは看取り介護の教育がされなければならないものと思います。当然のことながら看取り介護計画書に同意をいただく際には、同意者に救急対応が必要でないことを説明しております。」
終末期とは、医師によって不治の病であると診断をくだされ、それから先数週間ないし数カ月(およそ6ヶ月以内)のうちに死亡するだろうと予期される状態になった時期をいう。この段階で、積極的な延命治療を行わずに緩和治療だけを行いながら、残された時間を、その人にとって大切な人生の最終ステージと考えて、それにふさわしい過ごし方ができるように支援を受けることを選択した場合、その瞬間に対応の主役は、キュアからケアに変わる必要があり、そのことを「看取り介護」というのである。
そして看取り介護で一番大事なことは、対象者が最期の瞬間まで「安心・安楽」に過ごすということである。
しかしそれは「死」に向かう過程であり、対象者は確実に死の瞬間を迎えるのである。その際にバイタルが急に低下するなどの急変はあって当然である。あらかじめ想定されるそのような変化は、救急対応して改善を図る種類のものではない。
不必要な延命治療を行わないことが看取り介護の前提であることを理解すべきである。
そもそも看取り介護は、「医師が一般的に認められている医学的知見から回復の見込みなしと診断した者」とされているのだ。回復の見込みがないのだから、救急救命が必要な状態になることは通常想定されない。よって看取り介護対象者の急変時に救急救命搬送することなどあり得ないのである。そのことを理解し、スタッフ間で意思統一を図ることが重要である。
このことに関連して考えなければならないことは、看取り介護に移行する判断基準の問題である。前述したように終末期とは、余命がおよそ半年以内の時期であり、それより短い余命診断はあり得ても、それより長い余命診断がされる時期に、「終末期」と判定されることはないというのが一般的な解釈である。
そうした「終末期判定」がきちんとされているのだろうか。もしかしたら看取り介護対象者を緊急搬送する施設では、終末期でない人もその対象としているのではないかという疑問が生じざるを得ない。
終末期判定さえきちんとできておれば、看取り介護対象者への救急救命などという発想には至るわけがないのである。
救急車の問題で言えば、死亡確認のために救急車で遺体を病院に運んで死亡診断をしているような介護施設もあると聴く。こうした施設では施設所属医師が何をしているのかと問われてくるだろう。
看取り介護加算を算定することができる体制にある特養は、全国で8割を超えている。老健でのターミナルケアも、在宅復帰機能に反するものではないとして、少ずつ実施施設の数が増えている。その中で看取り介護の正しい理解がされないまま、「看取り介護」と称したニセモノの対応が行われているのは問題である。
終末期判定と余命診断がきちんと行われる必要があることも含め、看取り介護の関する様々な誤解や疑問を解くために、今年も11月からぜんこく7カ所で1日5時間の「看取り介護セミナー」(日総研出版社主催)を行う予定になっている。
その皮切りは、11/3(土:文化の日)の札幌セミナーである。人生の最終ステージに寄り添うための正しい理解を促すセミナー内容とするつもりである。それは看取り介護の場面だけではなく、ケア全般に通じる考え方と方法論でもある。
このセミナーを高齢者介護に携わる多くの方に聴いていただきたい。札幌を皮切りに、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡、岡山と回る予定である。必ず実りのある時間にすることを約束するので是非会場までお越しいただきたい。
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