保険・医療・福祉・介護の職業以外で、顧客に対して「ため口」で話しかけて許される職業はない。他の職業では、顧客に対して丁寧語で会話すべきかどうかということは議論にさえならない。そのことは至極当然の姿勢といえるからである。

介護業界は、そうした常識を持ちあわせていない異常な業界である。

介護業界ではいまだに顧客に話しかけるときには、丁寧語を使うべきではないかという議論がされ、各事業者で丁寧語で会話をする指導がされているという状況は、この職業がいかに未成熟で、品性に欠けているかという証明でもある。

有名な講師が壇上で、顧客である高齢者を「じいさん、ばあさん」と呼んで、それが親しみのある表現だと勘違いした輩が、実践レベルがその講師の域に達していないにも関わらず、その講師の汚い言葉だけを真似することによって、介護サービスの場で心づかいのない言葉に傷つけられる人がいなくならない。そのことを考えると、そのような不適切な言葉を使って講義する人間が、いかに高い介護技術を持っていて、達人の域に達していようと、その利より害の方の影響が大きいという意味で、バリアでしかない。それは前時代的存在といってよく、さっさとこの業界から去ってほしいと思うのである。

自分自身は30年以上介護施設などで働き続けてきたが、就職したばかりの一時期を除いて、ずっと利用者に対しては「丁寧語」で接してきた。その姿勢自体は、自分自身の中では誇りでも何でもない。ごく当たり前のことというレベルでしかない。そうしない他の人たちがどうかしていると思っている。

この職業を通して、社会の一員として認められ、この職業のおかげで生計を維持し、家族を養ってきた僕の身としては、いつまでも介護という職業を、顧客に向かってため口を使って話しかけるのが当たり前という恥ずべき状態に置きたくはない。自分や自分の家族が胸を張って、介護という職業に誇りを持てる状態にしたい。そのために『介護サービスの割れ窓理論』を20年以上前から唱えてきたし、全国各地で行う講演会でも、そのことを提唱し続けている。

この理論に共鳴して、自らの職場でこのことを実現させようとしている管理職の方も徐々にではあるが増えてきている。しかし僕と共通した思いを持つ介護経営者や管理職の皆さんの悩みとは、一度浸透してしまった、「ため口での会話」に慣れ親しんだ職員が、なかなかその習慣から抜け出せないというものだ。

しかし言葉遣いの改善は、単に事業経営者や管理職の思いとして職員に伝えるだけではなく、「職場の掟」としてのルールを定め、実践できない職員には、実践できている職員との差別化を図るために、何らかのペナルティを課すなどして、経営者が本気で取り組まねばならない問題なのである。おざなりの姿勢で、長年にわたって培われた悪習が変わるわけがないのである。(参照:説得ではなく納得の職場改革が求められている

利用者に対するため口を改めることができない職員は、昇給時期が遅れるだとか、役職に就けないだとか、様々なペナルティが考えられるが、そのことを就業規則として定めるべきである。

その時一部の管理職の方から、「言葉遣いを改めることはできないけど、仕事ができる職員」であれば、ペナルティを課すことで辞められては困るという意見がある。そもそも介護職員が足りないご時勢で、仕事ができる職員に対して、言葉遣いを直せないという一つの欠点のみを指摘して、へそを曲げられて辞められては困るとして、「叱る」ということすら躊躇する上司がいたりする。

しかしそれでは言葉の改革などままならない。仕事さえできれば言葉遣いのルールなど無視してよいと思われるからだ。

そして「仕事ができる」と思われている、言葉遣いの荒い先輩職員の姿を見た後輩は、低きに流れていくのは必然の結果で、そうした職場で「利用者には丁寧語で話かけましょう」という掟は、お題目・スローガンの域から脱することはできなくなる。

しかし仕事ができるって何だろうか。事業経営者の思いとは経営理念である。理念とは理想でも幻想でもなく、たどり着くべき究極の目標を達成するための考え方そのものである。その経営理念に沿って定められた職場のルール・職場の掟を護ることができない職員は、仕事ができているといえるのだろうか。

その職員は、単に日々の業務をこなすことに長けているだけではないのか。それが対人援助の中で、どれほど評価できることだというのだろうか。

むしろそうした職員の存在により、職場の掟が形骸化して、利用者に丁寧な言葉遣いと態度で接するという、介護のプロとしてのサービスマナーが無視され、すべての職員にホスピタリティの精神を持ってもらいたいという経営者の思いが実現しないのなら、その職員は仕事ができるとは言えない。むしろ経営理念に反した行動に終始するいらない職員だ。百害あって一利ない職員だと考えるべきだ。

現にある職場では、仕事ができると言われていた、そのような職員を降格させ、自主退職した後、職場の雰囲気が変わり、丁寧な言葉遣いが浸透していったという実例がある。

介護経営者の方々は、この部分で決して勘違いしないことだ。本当に変えたいと思うときは、その思いについてこれない職員については、日常業務に精通していたとしても、その職場では不要な人材であると考える覚悟も求められるのである。

サービスマナーが確立されていて、利用者に対してごく当たり前のように職員が丁寧に語りかけられる職場には、「利用者に思いやりをもって接する介護をしたい」という動機づけを持つ、志の高い人が募集に応募してくる傾向がある。

介護事業経営者の方々には、単なる人員ではない、人材が集まる職場を創るための重要な要素が、サービスマナーと言葉遣い教育であることに早く気が付いてほしい。

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