僕が提唱する「介護サービスの割れ窓理論」に賛同してくれる介護事業経営者や管理職の方は多い。

しかしいざ職場で職員にその実践を求めても、その考え方がなかなか浸透せず、丁寧語で利用者と会話することが実践できずに利用者に対してため口で会話する職員がいなくならないと訴える人も多い。その中には、「口が酸っぱくなるほど、注意しているのに直らない」と嘆く人もいる。

しかし経営者や管理者の方々には、「口を酸っぱくして何度も注意している」という労力は念仏化して、実を結ばないことが多いことを知ってほしい。注意を受ける職員にとって、それは「また施設長の例の注意が始まった。」という程度の響きしかないから、何度も同じ注意を受けても行動変容につながらないのである。

行動を変える動機づけは、上司が言い続けることで生まれるわけではないのだ。

介護サービスの割れ窓理論」とは、職員が利用者に対してため口で接することはプロとして失格であると考えるだけではなく、言葉を崩すことが態度の乱れに通じるリスクを考えたうえで、日常的に丁寧な言葉で接することが、そうした行動の乱れを防ぐ効果があるとして、一定程度以上の介護の品質を担保する対策として実践しようという理論である。

それを業務の中で職員に実行させようとするならば、そのことをきちんと法人のルールとして定め、その法人に努める職員が遵守しなければならない義務であることを伝える必要があるのだ。

つまり業務の中で利用者に対して丁寧な言葉遣いをすることは、法人の憲法であって、法人の「常識」であることを、経営者や管理者が職員に向かって宣言しなければならない。

そのうえでその実行を職員に求めることは、「労務管理」の一環であるという意識を待たねばならない。

その際に経営者や管理者は、職員に対して説得するのではなく、納得できるように伝えることが求められているのである。当然、納得できる説明力も管理者の、「交渉術」・「交渉能力」として求められているという意味になる。

そしてそのルールを守ることは、労務管理上は職員の義務なのだから、それに納得できない職員や、それを実行できない職員は、信賞必罰の原理により、何らかのペナルティを与えられる必要も生ずるだろう。丁寧な言葉で利用者に接することができない職員は、昇格機会を失うとか、人事考課上のマイナス査定にするなどが具体策として考えられてよいものだ。

もともと職員が急に眼の色を変えて働きだすという人事制度はない。こうした言葉の改革も同様で、一人一人の職員に経営者や管理者の思いを丁寧に伝え、まずは幹部職員の実践の徹底から始めて、徐々に職場全体にその風土を広げていくという地道な努力が必要不可欠である。

何よりも職業を行う上で、利用者(顧客)に対するマナーは不可欠であるという教育が必要だ。

組織風土は、あっという間に悪化するが、よくなっていくのには時間がかかるのである。しかし時間がかかるからこそ財産になると考えてあきらめないことだ。

そうであるがゆえに、経営者や管理者は、部下に思いを伝える。丁寧に説明して、厳粛に実行する覚悟が求められる。さらにこうした風土をつくるためには、組織全体で外部の講師を招いた場で、学ぶ機会が得られることが有効な手立てとなる。

僕は法人単位のサービスマナー講習の講師も行っているので、そういう機会を持ちたいと考えている法人及び職能団体等の組織団体の方がおられたら、ぜひ気軽に講師依頼の相談をしていただきたいと思う。

組織の財産となるサービスマナーを創りあげるお手伝いをさせていただきたい。

繰り返しになるが、口を酸っぱくして説得することはあまり意味がないので、納得のための「学びの機会」をぜひ職場全体で持ってほしいものだ。

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