介護保険法第1章・総則、第1条は、この法律の目的を定めている。
そこではこの法律が、「国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。」としている。
よってこの法律に基づいて介護サービス事業を行う者は、その目的を達成するための目標を定め、その達成に向けて努力しなければならないことは言うまでもない。
かつて、とある大学教授(故人)は、『介護保険は社会保険であって、社会福祉ではない。』と言ったが、この法律の目的が、「国民の福祉の増進」である以上、その法律を拠り所にして事業展開する介護事業者が、社会福祉の視点を無視して、営利にだけ走ることは許されないのである。
同時にその目的が「国民の福祉の増進」であるとしても、それを実現するための社会資源として介護サービス事業が存在する限り、経営的な視点を無視して事業継続ができるわけもなく、介護事業経営者には、国民の福祉増進と事業経営が成り立つ収益確保という、二つの視点を常に意識した事業経営が求められてくるわけである。
介護保険制度以前の措置制度では、措置費というぬるま湯に胡坐をかいているだけでも、事業運営が成り立った。そのため経営能力のないトップが、社会福祉という言葉をお題目のような唱えているだけで介護施設等の運営もできたわけだが、今の時代はそうではなく、経営能力のないトップの運営だけで、事業継続はままならない状態になっている。そんな中で、利用者の福祉はどのように護っていくべきなのだろうか。
その時に考えなければならないことは、介護事業者の様々な活動場所で働く人々の中に、社会福祉の視点を護り、それを部下に学ばせる現場リーダーの存在が不可欠になるということだ。
収益を挙げながら従業員にそれを適切に分配しつつ、安定した事業を続けていくという経営視点は、経営者が最優先して考えるべきことである。
勿論、従業員にも経営視点は必要で、介護事業の収益構造を知り、運営実態を把握することは求められることであるが、最優先して考えるべきことは、「私たちの支援の手が、利用者の福祉の増進につながているのか」ということである。利益を挙げるために利用者の福祉の増進が無視されることがあってはならないのである。
介護事業の経営者と従業者は、「利用者の福祉の増進が収益に結びつく方法論」を常に模索し行く必要があるが、それを経営者は経営視点から、従業者はお客様目線から考えていく必要があるだろう。
そのために現場で職員を指導し、それらの職員の先頭に立って引っ張るリーダーは、経営視点以上に介護の本質にかかわる視点を大事にしなければならず、利用者の福祉増進のための目標設定を行う存在である必要がある。
そもそも福祉とは「しあわせ」や「ゆたかさ」という意味なのだから、介護事業の本質とは、人の暮らしぶりをよくして、人が心豊かに幸せでいられることを目指して支援することだと考えるべきである。
そうであればリーダーとは、人を幸福にするための理念と、その理念を実現するための方法論を持つ人のことを言い、かつそれらを部下に的確に伝えるスキルが求められてくる。それは自分の仕事ぶりを見て覚えろ的な職人技を部下に求める人材ではなく、きちんとした実践理論と基礎技術を身に付けたうえで、言葉で知識と技術を伝えられる能力を持つ人材である。
そして知識や技術を伝える相手が、現場レベルで抱いた不安や疑問に対して、常に真摯に的確に答えられるのが真の現場リーダーといえるのである。つまり単にティーチング(指導する)する人材ではなく、コーチング(相手に考えさせる・気づかせる)ができる人材が現場リーダーとして求められているのである。
高齢者に対する介護事業であれば、リーダーには、誰かの人生の最晩年期に関わる使命を部下に伝え、その実現を図るためのコーチングも求められる。誰かの人生の幸福度に、決定的な影響を及ぼしかねないという責任感を使命感に替えて、提供するサービスが誰に対しても、一定以上のレベルが担保された適正な状態であることを、常に検証し、保証する役割りも求められるであろう。
介護の職業を選ぶ人達は、「人の役に立ち、やりがいのある仕事だから」という動機づけを持っている。そうした動機づけを持つ人たちのやる気を失わせることがないように、自らの介護実践の結果、誰かが心豊かに、幸せになるという結果を示し、そのことに誇りを抱くことができる人を育むのがリーダーの資質であり、役割りでもある。
その思いを決して忘れないでほしい。
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