先週・金曜日に、新宿で行われた東京都高齢者福祉施設協議会・生活相談員研修で講演を行ってきた。

この研修は当初200人定員で募集されていたが、受講希望者が殺到し、最終的には300人を超える方の申し込みがあったそうだ。1職種の研修で、このように多くの方が集まるというのは、さすがに大都会である。当日は相談援助業務の専門家である皆さんに、介護事業経営の視点も含めたメッセージを送ると共に、特養と通所介護を中心に介護報酬改定のポイントを整理するとともに、次期改正への布石なども解説してきた。

その中で、特養については入所者の医療ニーズへの対応強化が図られ、強化体制をとる特養の看取り介護加算の算定単位が引き上げられていることについての意味を解説するとともに、看取り介護ができない特養であってはならないし、そんな中で相談援助職に求められる重要な役割として、「リビングウイルの支援」があることを解説してきた。

その講演の後、ある施設の相談員さんから悩みを打ち明けられた。それは施設長をはじめとした施設職員が「看取り介護に取り組みたい」という思いをもって、施設所属医師に協力をお願いしても、その協力が得られずに、看取り介護を行えないというのである。具体的には、看取り介護に取り組みたいと医師に協力を求めても、点滴対応など終末期に必要な医療行為を施設で行うことは認められていないと拒まれてしまうというのである。しかし実際にはそのような禁止の法令は存在しない。

例えばリビングウイルの宣言を行っている人が、老衰で食事の経口摂取ができなくなった際に、経管栄養を行わずに枯れゆくように旅立つ際にも、安楽支援の観点から、わずかな量の点滴を行うケースは考えられる。

このようなケースで、長い間問題とされていたのは診療報酬の算定ルールであった。特養等の診療などの算定ルールを定めた厚生労働省保険局医療課長通知、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」の規定として、この通知が発出された当初から2016年3月まで、「特別老人ホーム等の職員(看護師、理学療法士等)が行った医療行為については、診療報酬を算定できない。」というルールが存在していた。このため医師が必要な指示を行って、特養の看護職員が点滴を行っても、その費用はどこからも出ない(診療報酬の算定ができないため)ことになっていたため、それは緩和治療を十分できないことにもつながるとして、そのことがネックとなって特養での看取り介護を実施することに二の足を踏む施設もあった。

しかしこの通知は2017年4月に改正され、次のようなルールに変更された。
「特別養護老人ホーム等の職員(看護師、理学療法士等)が行った医療行為については、診療報酬を算定できない。だし、特別養護老人ホーム等に入所中の患者の診療を担う保険医の指示に基づき、当該保険医の診療日以外の日に当該施設の看護師等が当該患者に対し点滴又は処置等を実施した場合に、使用した薬剤の費用については診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)別表第1第2章第2部第3節薬剤料を、使用した特定保険医療材料の費用については同第4節特定保険医療材料料を、当該患者に対し使用した分に限り算定できるまた、同様に当該看護師等が検査のための検体採取等を実施した場合には、同章第3部第1節第1款検体検査実施料を算定できる。なお、これらの場合にあっては、当該薬剤等が使用された日及び検体採取が実施された日を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。」

これにより配置医師のいない日も特養の看護職員によって、配置医師が指示した点滴等の医療行為を行い、医療材料費を含めた診療報酬を算定できるようになったのだから、看取り介護の実施に何の支障も生じないことになった。このような診療報酬算定ルールを確認することもなく、特養では必要な治療処置ができないという医師の思い込みによって、看取り介護の実施が阻害されることは本来あってはならない。

地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域の居所において暮らし続けることができるシステムを全国に創るという目的がある。それは死ぬためだけに医療機関に入院しなくてよい社会を創るという意味でもある。特養は心身の状態に応じた住み替え先の一つであり、要介護高齢者にとってはまさに「暮らしの場」であるのだから、終末期で延命治療が必要とされなくなった場合であっても、最期までそこで過ごすことができる場所でなければならない。それは社会的に求められる使命であり、特養の基本機能とさえいえる。そうであるがゆえに正しい法令理解のもとに、適切に看取り介護が行われる場所であってほしい。

そもそも看取り介護とは、医療でも看護でもなく介護である。看取り介護に付随した医療処置・看護処置も当然必要となる者の、中心的サービスはあくまで介護なのである。看取り介護を実施している特養の大部分では、看護職員の夜勤体制はなく、オンコール対応のみで看取り介護を行い、看取り介護対象者が息を引き取る瞬間にも、枕辺で家族と介護職員だけで看取るケースも多い。在宅で看取られている人も、旅立つ瞬間に傍らにいるのは、家族であって、訪問医師や訪問看護師が旅立つ瞬間にその場にいるケースは少ない。そうであるからといって何の支障もないわけである。

看取り介護対象者の、ほぼすべての方が、最後には食事も水分も摂取できなくなるが、だからといってそうした方々に必ず点滴が必要となるわけでもない。看取り介護とは、日常介護の延長線上に、たまたま終末期であることがあらかじめ診断されている人がいて、その人に対して実施されるケアであるが、その目的は最後の瞬間まで安心と安楽の暮らしを送るためのものであり、完全看護の体制が求められているわけでもなく、24時間の医療サポートが求められるわけでもないのである。このことを理解して関わるべきだ。

さてこのことに関連して、今年度の看取り介護講演としては、最終講演となるセミナーが、今週末福岡で行われる。3月24日(土)15:30〜16:20、電気ビル共創館(福岡県福岡市)で行われる「WCP(ワーコンプロジェクト)主催 セミナー」で、「生きるを支える看取り介護」というテーマで60分話をする予定だ。

同セミナーは、昨年10月に続いて2度目の登場だ。下記のポスターに掲載されているが、前半の講師・青木ワーコンプロジェクト代表は、「多様化する看取り介護の場所と方法」で紹介した、在宅看取り介護を支援する非接触バイタル生体センサー(見守りセンサー)の活用を推進されている方であり、今回のセミナーでは、その話しも聴くことができると思う。お近くの方は、是非会場までお越しいただきたい。お申し込みはFAX092-260-7619 ワーコンプロジェクトまでお願いします。

※すべての居所で看取り介護・ターミナルケアの取り組みがますます必要になります。年3月24日(土)午後14:00から、電気ビル共創館(福岡県福岡市)で看取り介護セミナー行いますので、お近くの方はぜひおいでください。
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