来年4月からの介護報酬改定論議では、早い段階で介護ロボット・介護支援ロボットの導入加算が議論の俎上にのぼった。

介護の業務負担の軽減や、事務の効率化のエビデンスが得られたものは、平成30年度の介護報酬で評価するという考え方である。

しかし議論の中では、介護ロボットは、介護職員の負担軽減には有効と考えられるがものもあるが、もともと少ない配置人員の削減は困難という意見も出された。そして介護ロボット導入については、必ずしも加算だけではなく、例えば今後、人員配置とか設備基準の見直しも含めて中長期的に考えていく必要があるという意見も示された。

その結果次期報酬改定では、例えば<移乗介助機器について> は、『移乗介助機器を活用した職員に対する聞き取り調査では、「介護者の身体的負担が軽 くなる」との回答が8割を占め、一定の負担軽減効果が見えたものの、移乗介助に要す る複数介助時間の比率の減少が認められなかったこと等を踏まえ、活用方策のあり方に ついて検討することとしてはどうか。』というふうに、今後の可能性の検討にとどめ置くこととした。

その中で今回は、特養で<見守り機器> を導入している場合の評価を導入することとしている。「見守り機器」がまず取り上げられたのは、介護ロボット等導入支援特別事業(2015年度補正予算)の活用対象機器で6割を占めていたことが背景としてあることは言うまでもないが、今回の評価は次のような方法として示されている。

特養の夜勤職員配置加算について、下記の2要件を満たしている場合に、夜勤を 行う介護職員又は看護職員の数が最低基準を0.9人以上上回って配置した場合にも算定できることとした。これは短期入所生活介護も同様とされる。
・ ベッド上の入所者の動向を検知できる見守り機器を入所者数の15%以上に設置し ていること
・ 施設内に見守り機器を安全かつ有効に活用するための委員会を設置し、必要な検討 等が行われること


現在の夜勤職員配置加算は、1名以上夜勤職員を加配していることが要件になっているが、見守り機器を入所者数の15%以上に設置している場合は、この加配が0.9でよくなるわけである。・・・それがどれほど特養にとってメリットになるかは疑問だが、機器導入が加算の要件の一つになることは、今後の介護ロボット導入についての、一つの道筋を示すものとも言え、注目すべきことのように思える。

ところで見守り機器は、本当に介護の業務負担の軽減につながるだろうか。

介護給付費分科会資料では、『夜間の入所者に対する訪室回数及びそのきっかけの調査では、見守り機器導入後、「定期巡回」や 「ナースコール」による訪室回数が減少し、全体の訪室回数も減少。 』としている。

実際にこの機器を導入している施設の職員に尋ねると、夜間全室巡回の必要がなくなり、同時に巡回しないことで、巡回者の気配で熟睡ができなかった利用者が熟睡できるようになって、日中の活動性が高まるなどの副次的ともいえる効果も見られるそうである。

そういう意味で今回の改定で、見守り機器の導入施設が増えて、その課題を浮き彫りにするとともに、さらに性能の向上と使い方の習熟がみられることにより、特養の夜勤者の働き方が少し変わる可能性もあり、そのことに期待を寄せることはあって良いだろう。そういう意味で、仮に僕が現在も特養の施設長であれば、現在の見守りロボットの性能も考えて、この導入は積極的に進める立場をとるだろうと思う。

さて、ここで一つだけ疑問が生ずる。それは夜勤職員配置加算は、特養だけではなく、老健施設と短期入所療養介護にもあるのに、今回は特養と短期入所生活介護の介護報酬のみに、見守り機器導入の評価が行われている。これはいったいなぜだろう?どうして老健と短期入所療養介護は対象外なのだろう。

これについて明確な答えはないが、想像できることは、見守り機器が介護の労力軽減につながるという明確なエビデンスがない状態で、全サービスにこの評価を導入することはできず、まず特養と短期入所生活介護に、『実験的意味合い』を込めて評価を行い、その結果を見て、今後の方針を考えるということではないのだろうか。

というのも、同じようなことが介護給付費分科会の通所介護の新加算議論において行われているからである。

昨日の記事『通所介護の管理者が今しなければならないこと』でも紹介しているが、通所介護の新加算では、、Barthel Index(バーセルインデックス:ADL評価法)による一定期間内の利用者の機能回復や維持に対する評価加算が新設されるが、この新設議論において、委員から次のような指摘と疑問の声が挙がっている。

「訪問介護など他のサービスの影響をどうみるのか?」
「ADLだけでなく活動や参加の視点も十分に勘案すべきではないか?」
「デイサービスの機能は孤立感の解消や家族の負担軽減なども含めて評価すべきではないか?」


これに対して厚労省の担当者は、「今回は試行的な意味合いもある。まずは介護報酬にアウトカム評価を組み込むことを優先させた。」と説明している。

つまり自立支援介護のエビデンスがない状態であるために、全サービスで評価する以前に、通所介護で試行的に自立支援新加算を導入し、顕在化する課題を解消しながらアップデートを重ねていこうというのである。

そうであれば、このような試行的加算を新設しながら、本体報酬を下げられる特養などの福祉系サービスは、国から医療系サービスより低い位置に見られているという意味かも知れない。

どちらにしても厚労省の担当者も馬鹿ではないので、「最新機器を導入すれば効率化が図れる」という単純思考で、この評価が組み入れられているわけではないということの理解も必要で、この評価が今後の橋頭保とされ、さらに本体報酬は上がりづらくなり、介護の費用が国の経済政策の中で考えられ、新たなベンチャー企業を育成するためにも利用されるという、いびつな報酬体系に向かっていく危険性をも含んだものであることに、注意と監視が求められるという意味である。

そういう意味で、この新評価は介護施設や事業者にとって、危険満載の新評価基準といえよう。
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