北海道の介護施設は、冷房設備のない施設がまだ多数派だ。涼しい北海道だから冷房設備がいらないという理由であるが、それでも最近は冷房が必要ではないかと思うほど暑い日や地域が多くなった気がする。

そんな中、介護施設に入所してる高齢者の方々は、暑い日に汗を流しながら、機能訓練や日課活動に取り組まれている姿が見受けられる。

しかしその人たちの日課や週課を振り返ってみると、月曜日の午前中に入浴介助を受けて、昼ご飯を挟んで午後から機能訓練に参加し、そこで汗をかかれても、その汗を流す機会は次の入浴支援を受ける時までないという暮らしを送っている人がいる。次の入浴機会とは、週2回しか入浴支援を行っていない施設なら、その日から3日後とか4日後とかになる。これって人の暮らしの質としてどうなのだろうと強い疑問を持たざるを得ない。

大学を卒業して、特養に勤め始めたとき、週2回のお風呂とか、時間ごとにしか交換しないオムツとかに疑問を持つ知識もなかったが、ソーシャルワーカーとしての仕事を覚えていく過程で、人の暮らしとか、そこにおけるQOLとか、そもそも『生きるって何?』と考えていく過程で、介護施設の中の常識が、世間一般の常識と異なり、そこで行われる生活支援という行為や、介護といわれる行為も、決して世間一般の暮らしとは言えないもので、介護といいながら、心にかけず護らない低レベルな行為であることに気が付いて行った。

そのため週2回の入浴支援さえしておれば良いという運営基準は、最低基準でさえなく、人の暮らしとしては意味のない基準であると考えるようになり、そう考える仲間を増やし、毎日入浴支援ができる施設にするための改革に取り組んだ。その過程での抵抗勢力は、反対のための反対論であり、現状にどっぷりつかって何も変えようとしない保守的な考えであった。その人たちは、「全員が毎日入浴したいって言ったらどうするの!!」とあり得もしない反対論で立ちふさがった。

しかし介護施設の入浴支援で、一番大変なのは、週2回の入浴であっても、「さっき入った」などと言って、入浴を拒否する方に対する対応であり、全員が毎日入浴を希望することなどありえないというのは、誰にでもわかる理屈だ。現に毎日入浴できるようにした後も、毎日入浴を希望する人はわずか5名程度であった。もしその時、4名は対応できるが、5名は無理となった場合、5人目の人には謝って、次は優先的に対応するからとして、頑張っていつか5名対応できるようにするだけだ。できない可能性のみに目を向けて、できる可能性をすべてつぶしてしまっては、介護の質は永遠に上がらないのである。

そんな中で、入浴支援だけではなく、食事も栄養補給より、人の愉しみとして、おいしく食べることができる行為のために何が必要かを模索し、支援者が立ったまま食事介助することの危険性とあわただしさに気が付くようになって、その方法も変えていった。プライバシーに配慮のない排泄支援は最悪であると考え、その方法も変えていく中で、廊下に行列を作って排泄支援や入浴支援を受ける暮らしの異常さにも気が付き、行列に並ばせないケアを模索するようになった。

オムツをしている人が、「オムツが濡れた」と訴えているのに、「もうすぐオムツ交換の時間ですから待ってください」などと言って、時間ごとにしかオムツを変えない異様な世界は、世間の非常識だという意識を持つに至った。

そんな風にして、毎日の入浴支援体制を作り、さらに昼間汗をかいた体を、夕食後にゆっくり湯船につかって、1日の疲れをとり、汗を洗い流して眠ることができないかと、毎日ではなくとも、せめて曜日指定で夜間入浴に取り組めないかと模索し、それも実現するようになった。

このように例を挙げればきりがないほど、特養にはびこっていた、「介護施設の常識は、世間の非常識」という状態を、一つずつなくしていく過程で、良い介護を目指す前に、当たり前の暮らしを護ることの大切さに気が付き、僕が勤務する特養は、いつしか地域の中でも優れたサービスを提供する施設と認められるようになった。

その特養の総合施設長を卒業し、医療系サービスの勉強もしてみようかと1年間老健施設で働いたが、そこは30年前の特養の姿そのものであった。(感覚麻痺はどこから始まるのだろう・老健編に続く)

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