介護事業経営者や管理職、リーダー職員等に向けたメンタルヘルスケア・ストレス管理等の講演機会が増えている。
明日、大阪に当日入りして大阪市立社会福祉センターで行う講演(大阪市老連主催・管理職研修)でもそのことは大きなテーマとして話させていただくが、介護事業経営の最大のリスクが、人材確保が困難となることであるのだから、職場において大事な人材の健康を守り、職員の定着率を上げるためにも、すべての介護事業管理者、現場リーダーには、メンタルヘルスケアの重要性を学んで、日ごろからそのことを意識して取り組んでいかねばならない。
特に介護事業者の管理者については、労務管理の一環としてメンタルヘルスケアを日常的に取り扱うことが求められるし、問題の芽が生まれた場合にそれを放置せず、当事者意識を持ち、問題を先送りしない意識が求められる。
そのために管理者は職員との日々の対話を心がけ、日ごろから従業員や部下との信頼関係を築いておき、もしも職員がメンタルヘルス不調に陥った場合に、それに伴う課題と解消努力への共通理解が持てる素地を作っておくことが重要になる。
しかし実際には、職員のメンタルヘルス不調の原因になっている管理者や上司が多いことも事実だ。
僕は自分が長く、しかも若いころから特養・通所介護・居宅介護支援事業所の総合施設長という立場で、労務管理を行う立場であったため、そのことを強く意識したつもりではあるが、なかなかうまくいかないこともあり、そのことを反省しながら現在の講演に生かしている。
さらに言えば反面教師といえる人も多く介護現場で見てきているので、そのことも実例として取り上げて、そうならない実務の方法論について語るようにしている。
前にも書いたが、ストレスはマイナス面だけではなく、仕事の効率を上げる側面をも併せ持っている。(参照:メンタルヘルス不調とストレスについて考える)
しかしストレスが最適なレベルを越えて、強い情動が喚起されるような状態になると、パフォーマンスは逆に低下する。それが続くとストレスを受けた側は、自律神経やホルモンバランスが乱れ、免疫の働きが落ちて、肉体的にも元気がなくなる状態に陥る。場合によってそれは、うつ状態や、不安といった精神症状などを引き起こすことが知られている。
そのストレス要因(ストレッサー)が、事業管理者など職場での絶対権力者である場合、ストレスを受ける職員に逃げ場はなく、メンタルヘルス不調は悪化するばかりで、回復不可能な状態になるので、事業管理者等、権力と権限を持つ人物ほど、そのマイナス面を意識して、自らを戒め、ストレッサーにならないような努力をすべきである。
一般棟と認知症専門棟がそれぞれ50床ずつに分かれている、とある老健施設の実例を挙げて問題点を抽出したい。
そこの管理者は医師ではあるが、ころころ変わる医師はお飾りの管理職となっていて、実際の権力者は事務長と呼ばれる人物であった。
老健は在宅復帰施設でもあるから、常に退所者が出て、その補充として新規および再利用者の入所をいかにスムースに行い、空きベッドを作らないかが収益を挙げるための最重要課題である。この入退所業務は、相談員が担当しているが、そこの事務長は相談員が入退所の窓口であり、担当者であるということから、ベッド稼働率の低下はすべて相談員の責任として押し付ける人物であった。
しかし実際のベッド稼働率は、入退所の窓口である相談員の仕事ぶりだけで決まるような性質のものではない。入退所担当者が入所希望者をいくら探し出しても、現場が受け入れを拒めばベッド稼働率は上がらないのは自明の理ではあるが、その受け入れ拒否の実態がとんでもない老健では、入所担当者がいくら頑張ってもそうしようもない状態が生まれている。
その老健では、介護職員のリーダー的役割の職員に異常な権限が発生しており、その職員の心づもり一つで入退所が決まるという悪習がはびこっていた。入所相談はひっきりなしにあり、実際に入所判定にかけることができる入所希望者がいるにもかかわらず、現場の手が回らない、人手が足りないという理由で、入所判定で「手のかかる利用者」はことごとく入所拒否される。恐ろしいことにその老健の受け入れ拒否理由(実際には現場リーダーの入所拒否理由といってよいが)は、「一般棟では食事摂取自立していて、見守りが必要ではなく、転倒の恐れがない自力歩行者しか受け入れられない」というものであった。およそ介護施設とは言えない入所判定基準が、現場の論理としてまかり通っているのである。
こんな最低な判定基準がある老健で、そのような老健の機能と役割とは言えないルールを押し付ける現場リーダーの低い意識を放置して、その中で入所担当者に、空きベッドの補充の「責任をすべて押し付けるような管理者のストレスは、まさにパフォーマンスを上げる良いストレス(ユーストレス)を超えた、良くないストレス(ディストレス)そのものであり、そのような施設に有能な人材は育たないだろう。
利用者確保は職員任せ、人材雇用は法人任せで、ストレッサーでしかない気楽な管理職というものは実際に存在している。そういう管理職では、どうにもならない厳しい時代になりつつあるが、歴史の遺物のような人に苦しめられている職員が、いまだに存在することも事実で、このことをなくしていくためにも、まだまだ僕がしなければならないことはあると考えている。


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