全国老施協が、来年度の介護報酬改定に向けた「決起セミナー」を10/5に東京都で開催した。
700人以上の会員が参集した会場では、「マイナス改定 絶対阻止」を決意として掲げたそうである。
また介護関連の12の職能団体は、介護報酬を引き上げるよう求める署名運動を展開している最中だ。
しかし情勢は厳しい。
財務省は昨年公表された一昨年度の介護経営実態調査で、訪問介護が5.5%、通所介護が6.3%という収益率が示されていることから、介護サービス事業はまだもうけ過ぎの水準にあるとして、さらなる報酬引き下げを強く求めているところである。
そんな中で、介護報酬改定議論を進める介護給付費分科会が、9/13日を最後にして審議が止まっている理由は、衆議院の解散総選挙という情勢とは直接は関係ない理由である。
次の介護給付費分科会は、昨年度の介護経営実態調査の結果が出されてから再開することが決まっていたためだ。従来ならその結果は、9月下旬〜10月初旬に公表されているので、そのことを踏まえるともう公表されて、分科会も再開されてよい時期なのに遅れている。
その理由について厚労省は、「従来は1カ月だった調査の対象期間を1年に延ばし、精査に時間がかかっているため。」と説明していたが、この理由は納得できない。調査対象期間が延びたとしても、数値が全てなのだから、出された収益率を示すだけの公表が遅れる理由にはならないからだ。
実はこの公表遅れについては、意図的に衆議院議員選挙後まで先送りしたことが明らかになっている。つまり先の厚労省の理由づけは嘘であったのだ。
毎日新聞の報道によれば、厚労省が公表を遅らせている理由は、『社会保障費抑制の観点から介護報酬は厳しい改定になる見通しで、今回の調査結果は財務当局が報酬引き下げを主張する後押しになるデータも含まれる。引き下げ論が強まれば介護事業者らの反発も予想され、同省幹部は「選挙に影響を与えないため、公表を遅らせた(報道記事より引用)』というものである。
さらに同記事には、公表を先送りしている昨年度の経営実態調査の収益率について、『今回の調査で、全体の利益率は3%強とプラス。引き下げ議論の焦点となりそうな通所サービスや訪問介護も、ともにプラスだった。』としており、通所介護や訪問介護(特に生活援助)は、さらなる報酬減額が行われる可能性が高いことを示唆している。
しかしその数値は本当に介護経営の実態を表す数字なのか実に疑わしい。過去にも意図的に操作したとしか思えない、実態とはかけ離れた数値が示されていた節があり、どのデータが正しいのか、不明瞭だからだ、
例えば前回大幅に介護報酬を削減した根拠とされた2014年介護事業経営実態調査の結果は、厚生労働省調査では全体の収益率が8.7%であったものが、全国老施協の支状況等調査では4.3%(国庫補助金等特別積立金取崩額を除けば0.0%)であり、同じく福祉医療機構では従来型で5.7%、東京都福祉保健局では4.3%と、厚労省調査の数値が他と大きくかい離しているのである。
つまりデータの読み方で、収益率などどのようにでも示すことができるということが証明されており、今回もまず報酬減額ありきで、その結果が公表されるという意味である。
民間企業は収支率が平均5%程度であるから、それ以上の収益率を公費運営している事業が挙げてはおかしいというのが国の理屈であるが、介護事業以外の民間営利企業経営者の年俸は1.000万円を超え、役員も多額の役員報酬を受けてっている上での収支率ではないか。特養の経営者は平均年俸が700万程度で、社会福祉法人の場合、役員報酬がゼロの法人が圧倒的に多く、そうした中でやっと収益を確保していることを考えれば、介護サービス事業の収益率と民間企業のそれを同じ机上で論議するのはおかしい。
そもそも介護事業以外の民間企業の利益率と、介護事業者の収益率を比較すると言っても、その分母の数字が、介護事業以外の民間企業のそれは介護事業者の数字とは比べ物にならないほど巨額ではないか。収支率が高いと言われる小規模デイサービスなどは、介護事業以外の民間営利企業の売上とは比較できない低額の収入の中から、様々な経営努力をして利益をひねり出しているものだから、その額は決して事業経営者が贅沢な暮らしを送ることができるような額ではないだろう。
しかしそういう理屈は通用せず、介護報酬の厳しい減額が介護事業経営を危機的状況にしている実態も選挙の争点にさえならない。事業所の体力を弱らせ、現場に深刻な疲弊をもたらした介護報酬の7減額が、社会保障費の自然増を本来の半分の額となる毎年5,000億円ほどしか認めないという「骨太の改革」の名のもとに続けられていく。
来年度以降の減額された介護報酬によって、累々と横たわる介護関係者の屍(しかばね)の傍らに、介護難民がさまよう姿が見え隠れするように思えてならない。
この国の介護は、安かろう悪かろうという方向に流れてしまうのではないかと危惧する。そんな中でも、介護の質を高めようと、全国をまわり歩く僕が、これから何をできるだろうかと、今一度問い直している最中である。
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この業界に携わって二十余年、若い頃には見えなかった、考えもしなかった国の思惑が見えたり、考えたりすることが少しはできるようになりました。
昔の介護が必ずしも良質であったとは思いませんが、それを割り引いてもmasaさんの危惧はひどく現実的に聞こえますね。