巷の話題はそろそろ総選挙一色となりつつあるが、その争点に介護報酬改定又は介護報酬と診療報酬のダブル改定が取り上げられないのはなぜだろう。

介護職員だけで全国に170万以上の人々が働いていることを考えると、そのほかの介護関係者を含めた数は決して日本を動かすに足りない数ではないはずだ。それなのに抑制され続ける介護報酬を引き上げる必要性を訴える政治家はほとんどいない。介護業界の発信力が問われていると思う。

そんな中で、全国老施協など7団体が、介護報酬の引き上げを求める業界の署名を内閣総理大臣や財務大臣、厚生労働大臣へ11月中旬にも提出する予定で運動を開始したとのことである。

どうせ何も変わらないと最初からあきらめて何もしないことが一番の罪だから、関係団体がこうした形でアクションを起こすことは良いことだと思う。しかしその時期はあまりに遅きに失しているのではないのだろうか。

介護報酬の諮問・答申は、来年1月中旬とすでに決まっているのだから、改定議論は年内に終了していることになる。11月中旬に署名が届けられて、改定議論にその結果が何らかの影響を与えるかどうかを考えたとき、その時期の署名結果などほとんど意味がなくなるのではないか。

しかも解散総選挙という、国民の声が直接国に届けることができる時期を失してしまえば、当選後の議員は、今後しばらくは解散の恐れはなくなり、2年以上の任期は見込めるわけで、そんな中で報酬改定が行われても、どの議員もほとんど興味を向けないのではないか。

しかし介護報酬の現状は大変な状況を生みつつある。前回の報酬引き下げで経営が苦しくなった事業者がたくさん倒産の憂き目にあっているが、それは現在介護事業に参入しているすべての事業者にとって他人ごとではない。いつ自分がのっかっている事業の梯子を外されるかわからないというのが、現在の介護報酬改定の方向性である。

来年の介護報酬改定で、給付抑制の最大のターゲットになるのは、サ高住や住宅型老人ホームの囲いこみサービスであるが、それはいったん国が架けた梯子をいきなり外すことと同じ意味だ。

なぜなら全国にたくさんサ高住を建設するように、補助金や税金を優遇したのは、サ高住が地域包括ケアシステムの基盤となる、高齢者の心身状態に応じた住み替え先と位置付けられたからである。そうであるがゆえに、住み替えは奨励され、そこに住んで外部のサービスを受けることを奨励していたわけだ。その時に国が示していたイメージ図が下記である。
サービス付き高齢者住宅と介護保険の連携イメージ
この図を見てわかるように、サ高住に診療所や介護サービス事業所を併設して、そこからサ高住を中心にしたサービス提供を奨励するかのようなイメージを示している。

つまりサ高住の収益モデルとは、高齢者の住み替えを促進して空き部屋を作らずに運営するだけではなく、そこに併設の外部サービスを張り付けて、暮らしの場と介護サービスをセットで提供しながら収益を挙げるという、「囲い込みモデル」であったはずなのに、次期報酬改定では集合住宅減算の強化など、この部分の収益モデルをぶち壊す方向が示されている。

このことに関連して、北海道では有料老人ホームなどを中心に事業展開していた、大手介護グループが事業撤退するというニュースが大きく取り上げられた。札幌地裁に自己破産を申請した介護施設運営のほくおうサービス(札幌)など、グループ5社の道内23施設を継承する予定だった福岡市の福祉施設運営会社「創生事業団」は、札幌など4市の8施設に関しては事業を継承しない方針を固めた。そのため施設は廃止となり、転居を余儀なくされる入居者は少なくとも約340人に達しているという。

現状の介護報酬で収益を挙げられず、経営が行き詰った介護事業を、別会社が買い取って再生させようとしても、次期報酬改定では有料老人ホームがさらに厳しい経営状況にさらされることが明らかなのだから、事業継承しないというのはごく当たり前の経営判断だ。こんな事業者は、来年度以降さらに増えてくるだろう。

そういう意味では、事業経営できないほどのひどい介護報酬改定が行われているという意味であり、それは行き場のない介護難民を多数生むという意味でもあって、これはもう政治問題といえるのではないだろうか。

このことが総選挙の争点として、クローズアップされないのは、やはり介護業界の発信力のなさという自己責任に帰していくのかもしれない。

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