改正道路交通法では、75歳以上の高齢者が運転免許の更新時か違反時に「認知症のおそれあり」と判定されたら、例外なく医師の診断が必要になり、認知症であると診断された場合、運転免許は失効・取り消しとなる。
このことについて診断を求められる医師の側から、様々な反対の意見が挙がっている。
「運転免許の取り消し」とは、高齢者の移動手段を奪いかねないことであり、そうした重大な問題につながる診断を、短期間で行うことは不可能だという意見。認知症だからと言って、正常な運転ができないわけではないので、認知症=免許取り消し、はあまりに短絡的で乱暴な考え方だとする意見・・・etc.
認知症の人の権利を護るという言う意味で、それらの意見も正論であるかのように聞こえる・・・。しかし認知症の人が運転ができるという意味は、認知症になってエピソード記憶や意味記憶が衰えても、それらとは回路が異なる手続き記憶が比較的最期まで残るために、運転動作は可能だという意味だ。この場合、運転ができても様々な判断能力が衰えている場合が多い。
勿論、そうでない人もいるのだろうが、運転に支障をきたす認知症か、そうでない認知症かという診断は不可能だ。そのことは実際に、日常的に運転していないと判断できない。
しかしその結果、正常な運転操作ができないことが分かった時点で、すでに事故を起こしているとしたらどうなるのだろう。その事故の結果が、尊い人命を奪ってしまっていたとしたらどうなるのだろう。
現に、毎年のように認知症のドライバーが運転する車により、引き起こされた事故で亡くなっている方がいる。
2013年6月4日、東京都狛江市の市道で、35歳の主婦が乗る自転車に軽乗用車が追突、自転車を引きずったまま100メートル先の民家の塀に衝突した事故では、自転車の後部座席に乗っていた2歳の女の子が頭を強く打って死亡している。現行犯逮捕された72歳の自営業の男性は、自転車にぶつかる200メートル前にも塀などに2回衝突していた。容疑者の親族は「認知症を患っている」と話しているというが、本人にはその自覚がなく、逮捕後も事故の記憶を失っているという。
2014年11月えびの市の県道で、76歳の男性が運転する軽トラックが路側帯に突っ込み、下校中の児童3人を次々にはねた。認知症の症状があり、医師や家族から運転をやめるよう注意されていたが、聞き入れず運転を続けていた。
2015年10月28日、73歳の男性が運転する軽乗用車が、宮崎市の歩道を約700メートルにわたって暴走。歩行中の女性2人が死亡、男女4人が重軽傷を負うという悲惨な事故が起きた。男性は数年前から認知症の症状があり、症状が出た後、複数回交通事故を起こしていた。
このような事故は、挙げればきりがない。中には自分の孫をひき殺し、その記憶がなく、入院先の精神科病棟でかわいい孫を探して徘徊を続ける認知症の人もいる。
それらのことを考え合わせると、一定年齢を超えた場合、認知症であるかないかという診断を線引きとして、運転免許を取り消すというルールは必要ではないのか。
認知症診断で免許取り消しに反対する医師の方々は、それなりの見識をお持ちの、まじめな方々だと思うが、あまりに悠長だ。認知症ドライバーにより引き起こされた事故によって、幼い子供などの肉親を失った方などからいえば、認知症とわかっている人に対し、事故リスクのある運転行為をやめさせないこと自体が罪深いということではないか・・・。
認知症の診断が、高齢者の「生活の足」を奪うことを問題視する人がいるが、そうであれば認知症診断により、運転免許が取り消された高齢者に対し、その情報を地域包括支援センターに送り、関係者が自家用車を運転士しなくなった後の、「生活課題」を話し合って対策するシステムを作ればよいではないか。それが本来の「地域包括ケアシステム」ではないだろうか。
一見、認知症の人の権利を護ろうというかのような、「認知症=正常な運転ができないわけではない」という意見は、その周囲に果てしなく危険なものを残存させ、尊い命の危険をばらまくものでしかない。
認知症だからと言って正常な運転ができないわけではないが、その状態ではいつ、判断の衰えで悲惨な事故を起こしかねないのだから、もう運転からは引退して、地域サービスによって生活に必要な移動手段を確保しましょう、ということでよいのではないだろうか。
そうすることが、超高齢社会の知恵ではないのだろうか。
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