2013年3月に、地域包括ケアシステム研究会がまとめた「地域包括ケアシステムの構築における 今後の検討のための論点」では、「地域包括ケアシステムでは、生活の基盤として必要な住まいが整備され、そのなかで高齢者本人の希望にかなった住まい方が確保されていることが前提になる。」と解説されている。

つまり地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で暮らし続けるために、自宅に住み続けることにこだわらず、心身の状態に応じた住み替えを求めるシステムなのである。

そうであるがゆえに、その住み替え先の選択肢を広げる必要性があった。

そのため政府は、2011年(平成23年)4月27日の通常国会で、国土交通省・厚生労働省が所管する「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)を改正し、同年10月20日に施行させた。

サービス付き高齢者住宅は、この時に改正された高齢者住まい法の基準により登録される集合住宅で、介護・医療と連携し、高齢者の安心を支えるサービスを提供することを目的としたバリアフリー構造の住宅で、「サ高住」と略して呼ばれることが多い。

しかしサービス付きといっても、その機能は、見守りと生活相談のみであり、要介護者はそれによって日常生活のすべての支援を受けることができるわけではないため、外部のサービス利用が同時に考えられた。

つまりサービス付き高齢者住宅とは、見守りと生活相談がサービスとして提供される住居の中で、暮らしの場とは別に存在する外部サービスを利用しながら、要介護社者等も住み続けることができる居所として考えられたわけである。

このように住まいとケアを分離することによって、公費はケアに対して給付することに限定されるために、財源負担が減る効果も、このことで見込んだものであることは明白である。

そのためサ高住利用者などを定期的及び随時の必要性に応じて巡回訪問する、「定期巡回・随時対応訪問介護看護」(いわゆる時間巡回サービス)が介護保険サービスとして創設された。

その際に、せっかく24時間巡回サービスを創っても、サ高住を併設した事業所が、地域を巡回せずに、サ高住の利用者のみにサービス提供を行うことが懸念され、運営基準に一定割合以上の外部の利用者への巡回義務を課すことが検討された。

しかし全国各地にサ高住を取り急ぎ建設促進したい国は、数値義務を課すことは、一定程度のサービス事業者数のある地域にしか、サ高住を建設できないデメリットにつながることを懸念し、結局運営基準(平成18年厚生労働省令第34号)では、「指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業者は、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所の所在する建物と同一の建物に居住する利用者に対し、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護を提供する場合にあっては、当該住居に居住する利用者以外の者に対し指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護の提供を行うよう努めるものとする。」という規定にとどめた。

つまり運営基準上、同一の建物に居住する利用者以外の者に対する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護の提供」は、必須条件や義務ではなく、単なる努力目標とされているのである。

このため当初の懸念のように、実際には地域を巡回せず、併設のサ高住の利用者のみの訪問サービス・通所サービス提供が目立つようになった。

そのことにメスを入れようとしているのが、次期報酬改定であり、集合住宅減算や同一建物減算が強化される方向で議論が進んでいる。(参照:区分支給限度額見直しの影響

それに加え今般国は、介護保険最新情報Vol.603を発出し、建設補助金の支給に関わる市町村の意見聴取に関連して、郊外部にサ高住を立地する場合も、適切な医療・介護サービスを選択できるように、サービス資源が存在する場所のみに、サ高住を建設することと、サ高住の入居者に対し、併設事業所のサービス利用を強要するようなことがないように指導強化することを通知している。

これは補助金支給に関わる通知であるが、これを受けてサ高住に併設されている居宅介護支援事業所の運営指導の際に、担当ケアマネジャーを併設事業所に変更することを強要していないか、併設居宅介護支援事業所により、併設事業である訪問介護等に偏ったサービス利用の計画になっていないかという運営指導も強化されることになる。

居宅介護支援事業における、集合住宅減算や同一建物減算の適用も検討されることになろう。

この背景には、サ高住の整備自体は、ほぼつつがなく終わり、全国各地にサ高住は既に存在し、かつサ高住の過剰供給地域も見られるようになって、利用者が集まらないサ高住の身売りが行われているだけではなく、その影響で全国の特養に25%の空きベッドが生じているという問題もあり、これ以上のサ高住の過剰供給は必要はなくなり、今後は必要のあるサ高住だけを創り、必要のあるサ高住だけを残そうという、「梯子はずし」の時期になったという意味である。

ということで、サ高住を抱える事業者の経営戦略は、抜本的に見直さないと経営は行き詰まることは明白である。サ高住利用者の囲い込みモデルは崩壊するので、サ高住以外の地域の利用者に対するサービス提供を広げていくための戦略見直しが不可欠である。

この見直しが遅れると取り返しがつかなくなり、経営破綻に追い込まれる事業者とならざるを得ない。


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