8月23日に行われた社会保障審議会・介護給付費分科会では、自立支援に向けた事業者へのインセンティブについて検討課題が示された。
つまり次期報酬改定では、利用者の状態改善に着目したアウトカム評価として、自立支援の結果を出した事業所を加算評価しようという議論である。
このことについては、自立支援とは何ぞやというふうに、その概念整理などを含めた議論が今後展開されることになるはずだが、翌24日の新聞各紙では、すでにこの加算評価が決まり事であるかのような報道がされている。おそらくこれは厚労省のリーク報道であり、いかに介護給付費分科会の議論が形骸化したものであり、アリバイ作りの議論はされるものの、結論はすでに決まっているという意味だろう。
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毎日新聞webニュース 2017年8月23日 19時24分(最終更新 8月23日 19時24分)より転載
≪厚労省 自立支援介護、報酬増へ≫
厚生労働省は23日、要介護高齢者の自立支援で成果を上げた介護サービス事業所へより多くの報酬を支払うよう、仕組みを見直す方針を固めた。高齢者の生活能力向上や社会参加を促すとともに、介護保険の費用抑制につなげる狙い。来年4月の介護報酬改定に反映させる考えで、同日開いた社会保障審議会の分科会に論点を示した。
現在の仕組みでは、サービス利用者の要介護度が軽くなるほど報酬が低くなるため、収入減を恐れる事業所が自立支援に後ろ向きになりかねないとの指摘が出ていた。見直しでは、心身機能の訓練などによって要介護度が改善したり、排せつや着替えなど日常生活動作ができるようになったりした場合、報酬を増やすことを検討する。費用のかかる要介護度の重い人を減らすことで、全体の費用抑制を図る。
一方で厚労省は、自立支援に消極的な通所介護(デイサービス)の報酬は引き下げる方針で、支払いにメリハリを付けたい考えだ。 (以下略)
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現在の介護報酬でも、通所サービスの事業所評価加算のように、利用者の状態改善に着目したアウトカム評価としての加算は存在している。そういった加算をもっと広く導入しようというのが今回の議論である。
特に居宅サービスについては、全サービスについて、自立支援の結果を加算評価しようというもので、具体的には一定期間ごとに利用者の要介護度の状態区分を判定し、軽度変更が見られた事業者に報酬加算が算定できるようにすることが考えられる。
当然その反動として、基本報酬を抑えて、新加算を創設するという方向となるのは当然で、逆に言えば、、今後はインセンティブ評価を得られない事業者は、経営が苦しくなり、撤退せざるを得ない、という方向に国は誘導しているということだ。
報道では、「自立支援に消極的な通所介護(デイサービス)の報酬は引き下げる方針」と書かれ、あたかも通所介護=自立支援をしていない、と捉えかねないが、これは舌足らずの表現で、通所介護のうち、個別機能訓練加算を算定していない事業者の報酬はさらに下げるという意味で、通所介護全体の基本報酬減を示したものだ。
このことについて関係者の間からは、「もともと介護保険制度の理念は、自立支援なのだから、報酬体系がその方向に変わっていくのは当然」という声も聴かれる。
介護保険制度の理念を否定するつもりはないし、自立支援そのものに対して批判するつもりはない。
しかし今回の議論の俎上にのぼっている事業者インセンティブが、本当に自立支援のアウトカム評価になるのかと言えば、そのことには疑問を呈しておきたい。
そもそも介護認定結果という尺度だけに着目して、その軽度変更だけがアウトカム評価であるというのはおかしな話である。本来の自立支援は、要介護度という尺度では測れない日常の暮らしぶりから判断しなければならないことも多い。さらに後期高齢者で、要介護度が高くなる人ほど、自立支援のアウトカムは、要介護度の軽度変更ではなく、現在の身体自立度の維持とか、身体機能の衰えのスローダウンという評価軸が必要になる。
新聞報道の見出しとなっている、「自立支援介護」という言葉自体が、看板に偽りあり、である。
後期高齢者や重度の要介護者にとっては、自立支援より自律支援という概念の方が重要になってくることも忘れてはならない。(参照:必要なのは自律支援)
要介護状態区分の軽度変更だけで評価されるアウトカムとは、もともと改善可能性のある状態像の人に対する評価でしかない。そうでああるがゆえに、この加算が導入された先には、加算を得るために、要介護状態区分の改善が見込まれない利用者を排除しようとする事業者が増えることは当然予測される。それを正論で阻止できるとは思えない。
そもそも居宅サービスの場合、複数のサービスを利用している人について、どのサービスの何が自立支援に結びついているのかを判断することは難しい。それを一色単に判断するとすれば、その評価に根拠は見いだせなくなる。エビデンスにはならないのだ。
このようなエビデンスのないアウトカム評価を、報酬加算とすること自体が問題である。
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