厚生労働省は7/27、労働者の心理的な負担の程度などを把握する検査を企業などに義務付ける「ストレスチェック制度」の実施状況を初めて公表した。それによるとストレスの状態を調べる検査(ストレスチェック)を既に実施している事業所は8割超で、このうち、医師による面接指導をした事業所は3割超あった。

しかし一方では民間サイトの調査で、医師の6割が労働者のメンタルヘルス不調の一次予防に効果がないと考えているなどの結果も示されており、この制度の運用自体にまだ様々な課題があることが明らかになりつつある。

そうはいっても、2014年6月に労働安全衛生法が改正され、2015年12月以降は従業員が50名を超える企業には、1年に1回ストレスチェックを行うことが義務化されており、介護事業者も例外ではないのだから、その実施に努めていかねばならない。

この背景には、1999年に旧厚生省が、職場のストレスがメンタルヘルス不調の原因となることを認めたということがあり、過労による自殺などの、企業の賠償責任を問う裁判が増え、企業側が賠償命令を受ける判例が増えているという社会情勢もある。

そんな中で、自殺やメンタルヘルス不調の責任は会社側=経営層と管理者にあるというコンセンサスが出来上がっているといえ、人の命や暮らしを護る介護事業者が、このことをおざなりにすることは許されないのである。

そもそも労働安全衛生法改正の主旨とは、ストレスチェックを実施することではなく、ストレスチェックによって、メンタルヘルス不調を未然に予防することにある。よって、ストレスチェックで高リスク者がスクリーニングされた際には、その原因は何かということが十分検証され、その要因を取り除く努力をしなければならない。

その原因の一つとして「職場のハラスメント」が挙げられる。その代表例であるパワーハラスメントについて、厚労省は次のように定義している。

同じ職場に働く者に対し、職務上の地位や人間関係等の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、又は職場環境を悪化させる行為

典型例として上司の部下への「ひどいいじめ」が挙げられるが、「ひどい」という程度に明確な尺度があるわけではなく、部下がひどいと感じてメンタルヘルス不調に陥った場合は、その責任を問われるという考え方が必要だ。特に上司が部下に対して、雇用不安を与えるような言動を行うこともパワーハラスメントとされるので、注意が必要である。

例えばそれは暴力・暴言に限らず、隔離・仲間はずし・無視などの人間関係の切り離しや、追行不可能な仕事の課題なる要求などもそれにあたる。逆に仕事を与えないなども該当するし、私的なことに過度に立ち入ることもハラスメントとされている。

もともと経営に深く携わる管理職は、自らがストレスを受けて、その発散として部下へのハラスメントに及ぶということがあるかもしれないが、自身の置かれた状況はともかくとして、人を管理する人間の責務として、「ハラスメントの被害者の心身のダメージは深刻であり、ハラスメントは有害である。」という徹底的な戒めが必要である。

特にハラスメントは、職場に間接的な負の影響も与えストレスに対する職場の緩衝作用を劣化させる恐れがある。例えばハラスメントを受けている同僚を気の毒に思ったとしても、自分がそのターゲットになりたくないために勇気ある行動がとれず、職場の雰囲気が悪くなり、ハラスメントのたーげんとになる人のみならず、その同僚たちにも心身不調を引き起こす場合が合ったり、パワーハラスメントの常態化している職場では、同僚間のモラルハラスメントが日常化するなどして、離職率が高まったりする。

そういう意味でも、パワーハラスメントだけではなく、同僚のハラスメント、異性からのハラスメントなど、様々なハラスメントをなくしていかねばならばい。

ただし道徳を説いてもいじめがなくならないように、ハラスメントも道徳を説くだけではなくならないから厄介だ。そもそも自分がハラスメントの元凶であることに気が付いていないような上司が実に多い。

そういう意味では職場の経営者や上司は、ハラスメントが「あるかもしれない」という前提で、それは特別な性格の人が行うのではなく、自分も加害者になるかもしれないという考えに立ち、「自分が正しい」という考え方も謙虚に見直す機会を、常に持つことから始めなければならないのではないだろうか。

愛のムチというが、そこに本当に愛情が込められているかを問い直す必要がある。


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