僕の知る限り、公表されている介護事業経営実態調査の最新データは、平成26年度のものであると思うが(違っていたら指摘してください)、それを見ると居宅介護支援事業所の収支率は、−1.0%である。
調査対象事業で収支率がマイナスとなっているのは、居宅介護支援事業所と複合型サービスだけで、居宅介護支援事業所は2000年の制度開始以来ずっと収支率がマイナスである。
そうであるにもかかわらず、次期報酬改定においても居宅介護支援事業所の収支率改善のために、基本サービス費を引き上げる必要があるのではないかという議論は全くない。
その理由の一つは、解釈通知老企第22号の、2 人員に関する基準(1)介護支援専門員の員数にある。ここでは、「介護支援専門員については、他の業務との兼務を認められているところであるが、これは、居宅介護支援の事業が、指定居宅サービス等の実態を知悉する者により併せて行われることが効果的であるとされる場合もあることに配慮したものである。」と規定している。つまり介護支援専門員は、居宅介護支援事業のみで報酬を得るのではなく、他の業務を兼ねてそちらの報酬を得ることが可能であり、それらをすべて含めて居宅介護支援事業の経営は成り立つという理屈である。
兼務を認めているからと言って、単独で事業経営が難しいことを想定した事業を、制度の中心に据えてどうするのだと言いたい。
さらに国は、居宅介護支援事業所が単独で安定経営を目指すのであれば、事業規模を大きくして主任介護支援専門員のほか、介護支援専門員を複数配置して、「特定事業所加算」を算定できる運営をすべきだと考えている。
しかしこのことは「囲い込み」を否定する制度の理念と矛盾していると言えるかもしれない。事業規模を大きくするためには、事業経営母体の体力が必要で、大きな母体が経営する居宅介護支援事業所は、母体のサービス事業を優先利用する傾向にあるからだ。どちらにしてもこの加算を算定できない事業所は、事業単独では赤字でもやむを得ないという報酬設定はあまりに乱暴だろうと思う。
そんな中で、経営母体の方針により、利用者本位の支援がゆがめられることを嫌って、本当の意味の独立・中立のケアマネジメントを目指す人々が、居宅介護支援事業所を自ら立ち上げて、一人ケアマネ兼管理者として、各地域でその専門性を発揮しながら、利用者支援に携わっておられる。
しかしそのことについても国は否定的な見方をしている。
どういう意味かといえば、金曜日に書いた、「居宅介護支援の論点」でも示しているように、「介護支援専門員一人のみの事業所については、その担当者が怪我や病気で業務に就けなくなることが懸念される。」という理屈である。
その理屈がいかにおかしいかということを、僕のフェイスブックにコメントしてくださった方がいる。本日はコメントを書いてくださった、浜松市の独立・中立型居宅介護支援事業所「ジョアン」の管理者兼介護支援専門員・粟倉 敏貴氏の許可を得て、そのコメントを転載させていただく。
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医師や弁護士に対して「一人親方でやっていて病気や事故になったらどうする?」なんて愚問はしませんよね。当人が患者やクライエントの治療や弁護を継続している最中に不測の事態があれば、他の同業者が(前任者と全く同質の仕事ができないにせよ)代わって請け負えば良い話です。ケアマネジャーに関してのみ執拗にそんな議論がされるのは、失笑を禁じ得ません。
政策側には、過去、業界を混乱させた一部の「一人勝ち」「自分さえ良ければ」型の一人親方に対するアレルギーがあるのでしょうか。(粟倉氏のコメント)
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まったくその通りである。厚労省は介護支援専門員という資格を、「作ってやった」という意識があるから、自分たちの考え方ひとつで、どのようにもできるし、しなければならないと考えているのではないだろうか。
技術が先にあって、資格が後からできた医師には言えないことも、介護支援専門員にはズバズバ言いたい放題というところが見えなくもない。しかしこのことは国自らが意味不明のヒエラレキーを創りあげているようなもので、医師と介護支援専門員の間に、見えない高い壁を作っているようなものだ。その結果、「医療関係者が連携をとりにくい相手1位はケアマネ」で紹介したように、医師とケアマネのそれぞれが連携しずらさを感じている。まさに無意味なヒエラレキーが、連携を阻害している状態と言えよう。
地域包括ケアシステムとは、多職種連携が基盤になるのだから、それを阻害する一番の要因となるヒエラルキーをなくすためにも、国の居宅介護支援事業に対する考え方は、根本から見直されるべきであるし、当然その際に、独立・中立ケアマネジメントを目指す一人ケアマネ事業所は、もっと高く評価されるべきである。
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