来年度の介護報酬改訂議論は、居宅サービスから始まり、前回7/19の介護給付費分科会で初めて施設サービスの中で、特養の報酬改定に向けた資料が示された。

その中で論点として挙げられているのは次の4点である。

1.介護老人福祉施設の入所者のプライバシーに配慮した上で、一人ひとりのニーズに即したケア を実現するために、どのような方策が考えられるか。
2.介護老人福祉施設における看取りや医療ニーズへの対応をさらに進めるために、どのような方 策が考えられるか。
3.施設等における身体的拘束廃止に向けた取組をさらに進めるために、どのような方策が考えら れるか。
4.介護老人福祉施設における障害者支援について、どのように考えるか。


このうち1.3.4については、とってつけたような内容で、喫緊(きっきん)に何かをしなければならないという差し迫った問題があるわけではなく、課題がないと困るので挙げておこう的な内容のような気がしてならない。この部分での大きなルール変更には結びつかないのではないのだろうか。

考えてみれば平成27年度からの介護報酬改定時に、特養については、入所要件の厳格化(原則、要介護3以上)という大きな改革を行うと同時に、光熱水費の額の見直しや、多床室の光熱水費以外の室料の自己負担化など大きな変更が行われたばかりであり、次期報酬改定ではそのような問題は特になく、プチ改定となるのではないだろうか。

その中で前回同様、「看取り介護」が取り上げられているのは、死者数が増えるわが国で、2040年には47万人を超える、「看取り難民」が出現しかねないという問題があり、特養のみならず、介護施設すべてに看取り介護・ターミナルケア機能の充実が求められているという背景があることによるものだ。

資料にも書かれているが、平成27年度介護報酬改定では、施設での看取りをより推進する観点から、看取り介護加算につい て、医師その他の職種による協議の上、看取りの実績等を踏まえ看取り指針の見直しを実施するこ と等を新たに要件として、死亡日以前4日以上30日以下の期間における単位数の引き上げがされた。

基本サービス費が大幅に引き下げられた中で、この加算を算定することは、特養の経営上より重要になることで、特養での看取り介護実施の促進を図ったものである。

このことに関連して、本年3/22に行われた、『医療と介護の連携に関する意見交換(第1回)』では、「多くの特別養護老人ホームでは看取りに積極的に取り組んでいる一方で、 一部の特別養護老人ホームでは、看取りに際して入所者を医療機関に搬送 している。」・「特別養護老人ホームにおいては、多くの施設で看取りを行っている一方 で、必要な体制の確保ができていない、施設の方針として看取りを行わな い等の理由で看取りを行っていない施設が約 10%ある。」という指摘がされた。

そして、「特別養護老人ホーム及び居住系サービスの入所者の看取り期における医 療ニーズに適切に対応するため、特別養護老人ホーム及び居住系サービス が提供するべき医療の範囲と、外部の医療機関等が提供するべき医療の範 囲について、どのように考えるか。 」という課題が検討されるべきとされている。

それを受けての報酬改定論議であり、すべての特養で看取り介護が実施できるように、外部の医療・看護サービス(訪問診療や訪問看護)の導入促進が検討されているわけである。

例えば特養利用者に対する訪問診療については、がん末期などの対象者については認められているが、これをすべての利用者を対象にしてはどうかという議論が、診療報酬改定議論と並行して行われる可能性が高い。訪問看護も同様に規制を撤廃する必要がないかという議論に向かうだろう。

しかしこのことは極めて的外れな議論であると指摘しておきたい。

なぜなら今の体制であっても8割以上の特養が看取り介護を実施できる体制があると言っているのだ。(※ただし、その中には看取り介護加算は算定していても、実際は施設内孤独死をさすているだけの特養もあり、看取り介護とはいいがたい状態で利用者を死なせている施設もある。筆者はそれを看取り介護とは認めていない。)そうであれば残り1割強の特養が看取り介護を実施できないのは、医療体制の問題ではなく、看取り介護に対する考え方とケアサービスの力量の問題である。

看取り介護を特別視したり、看取り医療と勘違いしている施設において、その実施が阻まれているだけである。そうした施設は、外部の訪問診療や訪問介護の規制がいくら緩和されても、それを使いこなして看取り介護を実施できるようになるとは思えない。

そもそも看取り介護は、ケアサービスが中心になって、脇を適切な医療と看護で支えるというものであり、ここが有機的に結びつかないと品質を保つことは難しい。ただでさえ難しい多職種連携を、施設内チームのみならず、外部の他機関を交えてとろうとするのは、よほど腕の良いコーディネーターが必要で、今現在看取り介護ができていない施設に、そのような力量があるのかを考えると、それは極めて疑わしいと言えよう。

厚労省が、特養利用者に対する外部の医療・看護サービスの導入促進を図る先には、将来的に特養の医務室設置義務や医師配置義務をなくし、外部の医療との連携だけで特養が運営できるようにしようとする意図も見え隠れしている。それはとりもなおさず基本サービス費の引き下げの方便である。つまり医師配置部分の費用を基本サービス費から削って、利用者の医療対応を外部のサービスに委ねようという形を模索しているようにしか感じられないのだ。特養経営者はこのことにもっと危機感をもって、異を唱えるべきではないだろうか。

むしろ特養の機能を考えるなら、医師配置がされ、その中できちんと最後の瞬間までケアサービスを提供できる特養の看取り介護加算は、もっと単価が引き上げられてよいと主張すべきで、外部のサービスとの組み合わせで看取りを行うサービスとの差別化を、より図る方向で議論すべきではないかと思う。

※全国7ケ所で行ってきた「看取り介護セミナー」はいよいよ岡山セミナーを残すだけとなりました。まだ申し込み間に合いますので、お近くの方は是非会場までお越しください。
無題


新刊「介護の誇り」出版記念セミナー・感覚麻痺・不適切ケアの芽を摘む!〜介護保険施設・事業所で虐待を発生させない〜介護サービス質向上の具体策の詳細と申し込みはこちらからダウンロードしてください。

日総研出版社主催・看取り介護セミナーのお申込みは、こちらからダウンロードしてください。
※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

・masaの最新著作本「介護の誇り」は、こちらから購入できます。
・「介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料のインターネットでのお申し込みはこちらからお願いします。
・「人を語らずして介護を語るな 全3シリーズ」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。