特養に勤め始めた当初、利用者の入浴支援が午前中から行われていることをおかしなことだと感じた。そこには入浴介助というプログラムは存在していたが、人の暮らしを支えるための入浴支援という行為は存在していないように思えた。
勿論、一般家庭でも朝風呂を習慣にしている人はいるだろうし、社会人現役世代でも、出勤前にシャワーを浴びて出かける人もいるだろう。しかしそれらの人は、おそらく毎日のようにその習慣を続けているだけではなく、仕事帰りや、夕食前後にも入浴する習慣がある人が多いのではないだろうか。
しかし僕が特養に初めて入職した当時、入浴支援は週2回しか行われていないのが現実で、その中で午前中に入浴させられている人たちは、その日午後から汗をかいても、その後2日なり、3日なり、その汗を流すこともできないという生活スタイルであった。
それは人の暮らしとしてどうかと疑問に思いながら、その後何年も様々なバリアによって改善を行えないまま過ぎ、やっと2000年の介護保険制度への移行がきっかけとなって、毎日入浴支援が行われる体制へと改善することができた。
その時に、日中に汗をかいた人々が、夕食後にゆっくりとその汗を流して眠ることができるように、希望する人には夜間入浴も実施できるように提案した。当然そのためには、遅出などのシフトの見直しが伴い、それまでより遅い勤務時間で出勤しなければならない介護職員が増えるとともに、その分日中の勤務者が減るということになるわけで、日課プログラム全体の見直しも必要となった。そのため、そのことに対しては根強い反対意見があった。
反対者の理屈の中には、「全員が夜間入浴を希望したら対応できない。」という意見まであった。しかしこれは反対のための反対論でしかない。
当時、実際に夜間入浴を希望されていた方は、100人の利用者中、わずか3名である。それだけの希望者しかいないのに、全員が夜間入浴を希望するという、ありえない想定で反対する人の考え方こそ、介護の質を劣悪なものにする根源であると考え、そうした考え方がいかにネガティブで、人の暮らしを支える現場で不必要なものであるのかということを認識してもらうために、時には強い言葉と態度で、反対論者には教育的指導を行いながら、現状からの脱皮を図った。
そもそも入浴支援で、我々が一番困るのは、入浴が必要なのにお風呂に入ってくれないという介護拒否であって、喜んで入浴支援を受けてくれる人ばかりなら、何も苦労はないわけである。だから全員が毎日、夜間入浴したくなる施設であれば、喜んでその体制に向けて改善・進化すべきであるが、そのような可能性は少ないだろう。
そんな紆余曲折を経て、夜間入浴希望者のニーズにも応えられるようにしたが、毎日夜間入浴をしたいという方はおられず、日中の入浴に加えて週1〜2回の夜間入浴を希望する人が数名おられた中で、曜日限定での夜間入浴支援が今でも続けられている。勿論、日中の入浴支援は毎日が基本となっている。そんな施設もあるという事実に、週2回しか入浴支援をしない施設の人々は、何も感じないのだろうか。
入浴一つ取り上げても、それだけの違いがあるということは、ケア全般に対する利用者本位の考え方は、様々な場面で差となって表れてくるということだ。この施設間格差は、僕自身が体験的に感じているところであり、全体の水準の引き上げのためには、利用者本位という言葉を、建前ではなく本音に変えることが必要だろうと思う。
そのためには自分が生活の糧を得ている職業の使命感を意識し、その仕事に対する誇りを抱く必要があるということだ。
入浴支援という行為を、利用者本位の視点から考え直す時に、業務負担は増えるのかもしれない。介護業界全体が人手不足の中で、そのような負担増に職員は耐えられるのかという声が聞こえそうだが、利用者本位を貫こうとする職場で、実習する学生は、その職場に就職したいと言う。そういう職場には就職希望者が集まる傾向が強い。
介護職員の募集に応募がなく、雇用しても短期間に職員が辞めていく職場では、どんなに介護を切り捨てて、業務を軽減しても、常に職員不足で現場は疲弊していく。しかしその原因は、介護という職業に誇りを持つことができないレベルの低いサービスの実態そのものであったりする。人手不足を理由としてケアレベルが下がることを仕方ないとする考え方は、さらに人が集まらないという悪循環を引き起こす最大の要因で、そのようなネガティブな考え方のリーダーを現場に持つ施設・事業所には将来はないだろう。
利用者本位を貫いて、高品質なサービスを提供しようとする事業者には人が集まり、離職率が低下し、援助技術と知識に長けた指導者が生まれる傾向もみられる。
そういう意味では、財源も人的資源も厳しい時代に、生き残っていく事業者とは、対人援助サービスの根源である、「人間愛」の精神を忘れることなく、人の暮らしを支えるための利用者本位の精神を貫く事業者ではないだろうか。

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