非常勤講師として教壇に立っている介護福祉士養成校の学生の半分は、20歳前後の若者である。

彼ら、彼女らは熱意もやる気もあるのだが、いかんせんそのやる気を示す方向性が違っていたり、ちゃらんぽらんであったりすえることが多い。知識もまだ拙(つたな)く、自分の思いを正しく言語化する術(すべ)を持っていない。

教壇に立つ身としては、学生に対して単に介護の基礎知識を暗記させるのではなく、人として成長させるのが務めと考えているので、彼らのやる気を正しい方向に向かわせ、他者に誤解されないように、彼らの素直な思いを伝えることができるようになる訓練を心がけている。特に学生たちが目指すものは、対人援助の専門家になるということなのだから、人に対して優しく思いやることの意味や、その思いをどう表現するのかということを伝えたいと思っている。

そのため時には、叱咤激励の意味を込めて、強い言葉で叱ることもある。しかしそれは感情にまかせての怒りの発露とは違うと思っている。

僕が6月と7月に担当している授業は、社会福祉演習という授業で、高齢者に限らず社会福祉全体を網羅する事例研究を、演習授業という形で行う授業だ。4人〜5人のグループで、毎回司会進行役、記録係、発表者を順番で担当しながら、それぞれの役割の責任を負い、決められた課題についてグループの意見をまとめて、発表を行うというものだ。

発表者は指定された時間内で発表を終えるだけではなく、指定時間以下の発表も許されないというルールを設けている。

学生にとって上限時間内で話すより、下限時間以上に話をすることのほうが難しいのが実態で、グループでまとめた意見を、単に棒読みするだけではこの下限時間はクリアできない。そのために発表者には、自分の意見を交えながら工夫して話をすることが求められる。そしてどうしても下限時間をクリアできない場合は、授業に関係のないプライベートのことでもなんでもよいから、「話をする」時間が下限時間を超えればよいとしている。

ドメスティック・バイオレンスが行われている家庭で育った子どもが、そのことによって受ける影響に関する演習発表では、自分がその体験者であることを滔々と語る子もいたりして、その話は一教師の講義より学生の心を打つ内容であったりする。僕自身の学びにもなる。

幼児虐待の事例演習では、しつけのための暴力と、虐待といえる暴力はどこに線引きがあるのかという疑問が呈されたりする。

これらの疑問に対して僕は、正答を示すことはできないだろうが、疑問に対する僕なりの見解を示すことは避けることができない。教師の務めとして、疑問に真摯に応えることは避けて通ることができないからである。

僕は二人の子を育てた親として、その意見を述べる。僕自身は、暴力がしつけになるとは思わないが、どうしても子の頬を、自分の掌で打つ必要がある場合、それは自らの感情に任せての行為ではないと思う。親が子の体を痛める行為を行うときは、親の感情で暴力をふるうということではなく、心で泣きながら、自分の掌の痛みも厭わずに、子の頬を打つのだろうと思う。そこにあふれんばかりの愛情があるからこそ、その行為は許され、それはしつけになるのだろうと思う。

そういう前提のない暴力は、すべて虐待行為である。年端のいかない子を、力の強い大人が、その力でもって支配するだけの行為を、「しつけ」とは言わない。愛情の伴わない、「教育」はあり得ないのである。

しかし、最初から親であった親はいない。誰しも親になるときは、初心者なのである。だから間違えることもある。子をやったことがある親であっても、親をやったことのない親は、間違えるのである。だから感情に任せて、子に怒りをぶつけてしまう親も時に入るのだろう。その時に愛情があって、後悔する気持ちがある親なら、愛するあなたのお子さんは、間違うあなたを許してくれるのではないだろうか。

過去に発達心理学を学び、児童福祉の専門家を気取っていた僕であっても、この程度の見解しか示すことはできないが、そのことを心をこめて、真摯に伝えるのが、僕の授業に臨む姿勢である。

そしてこうした教育の場が、僕にとって何よりやりがいのある場所になりつつある。その授業もあと数日で終わり、その授業を受けている学生たちとの別れが近づいている。あと数回の授業で、学生たちに何をどれだけ手渡すことができるかを、寂しさとともに、思う日々が続いている。

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