改正介護保険法などを含む「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」は、先週末の25日に参議院厚生労働委員会で自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、26日の参議院本会議でも可決・成立した。

森友問題、加計問題やテロ等準備罪法案審議が全面に出されて、介護保険法案については野党からのさしたる反対の声もなく、過去最低の審議時間で可決されてしまったが、この法案には重大な変更点があって、今後の制度運営に大きく影響しそうである。

介護業界にとってこのことは大ニュースといってよいはずだが、それに対する反響が思ったほどない。また巷のニュースでもその取扱いは大きくない。

介護保険法改正に関連して報道されている内容は、現役並み所得者とされる所得が年340万円以上(単身)などの介護保険サービス利用料が、30年8月から3割負担とされることである。

なるほどこれも大きな変更だ。特に27年度改正で、所得が年280万円以上(単身)など「一定の所得のある人」が2割とされたばかりで、その影響についての検証作業も行われていない状況で、さらなる負担増を求められる人がいることは大問題である。これによってサービスを抑制せざるを得ない人や、そのことで暮らしに困難が生じる人がいないことを願うのみである。

またこの変更によって、高額介護合算療養費の対象となる人が増えることが予測され、居宅介護支援事業所の介護支援専門員などが、この制度を活用するように利用者支援する必要性も増すだろう。そのことを忘れないでほしい。

2号被保険者の保険料が、段階的に総報酬割りに変更されることについても、大企業等のサラリーマン家庭にとっては、直接家計に影響する問題なので、大きく取り上げられるのは当然だろう。

しかしそれらの変更は、かなり以前から予測されていた範囲の域を出ない。それが証拠に、僕自身が2007年12月04日に書いた、「介護保険利用者1割負担は恒久的なものではない」で、自己負担割合は3割まで拡大されることを予測しているし、2号保険料の総報酬割りについては、「2号保険料の算定方式は変更は、財の再分配効果に繋がる」などで、そうすべきであることを主張し続けてきた。

だからこれらは既定路線であり、実施時期が来年度からになったに過ぎない。

今回新たに示された変更として介護医療院を新設(35年度までに介護療養病床を廃止)することや、介護保険と障害福祉のサービスを一体提供することを想定した「共生型サービス」の創設も報道されているが、それ以外にほとんど報道記事に書かれていないことで、大きな変更があることをご存じだろうか。

それはこのブログで再三取り上げている市町村のインセンティブである。(参照:報奨金で地域他付けケアシステムは深化するのか)これは制度の理念や根幹を揺るがしかねない大きな改革である。

このことを、あまり深刻に捉えていない関係者が多すぎるのではないかと心配している。特に改正法で一番影響を受けると思われる介護支援専門員から、そのことに関連した声が挙がってこないのはなぜだろう。それともこの大改革に気が付いていないのだろうか。

これによって市町村のケアマネジメント介入が深刻な問題となってくる。特に30年4月からは、居宅介護支援事業所の指定権が、都道府県から市町村に移り、市町村の指導権限が強化される中でのインセンティブの導入なのだから、報酬金を得るための市町村によるケアマネジメント介入強化が図られる。

そのモデルは和光市方式なんだから、介護保険サービスからの卒業を求められる利用者や、そのことを積極的に行うケアマネジメントが求められてくる。

しかし卒業者といわれる人々の後追い調査では、約1割の人がその後も自費(介護保険外の10割負担)でサービスを使っていたという数字も出されており、その実態は単なる給付制限でしかないことも明らかになっている。そうであるがゆえに来年度以降は全国津々浦々で、そうした矛盾に悩むケアマネジャーが増えるというわけである。

さらにこの問題に関連しては、社会保障審議会介護保険部会が、ケアマネジメント手法の標準化に向けた取組に取り組むことも資料に明記しているのだから(H28年12月9日の社会保障審議会介護保険部会の資料2)、アセスメントツールの統一に向けた動きが出てくる可能性も高い。そうなれば介護支援専門員は、今使っている慣れたた手法を捨てて、統一されたツール手法を学びなおす必要もある。ソフトだって新たに導入しなければならなくなる。

つまり、好む好まざるにかかわらず、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の仕事ぶりが変えられるということだ。これは本当に大きな変更だ。介護支援専門員の職能団体は、このことについてなぜもっと意見を挙げないんだろうか。大いに疑問である。

またこの変更は(あえて改正という言葉を使わない)、他の分野にも及んでくる。、2018(平成30)年度介護報酬改定から、自立支援に向けたインセンティブを検討するとされているんだから、自立支援介護の名のもとに、何らかの成果に対する加算報酬が、各サービスに導入される可能性が高くなった。

それは人の自立を要介護度の軽度化という現象でしか評価しない、「自立支援の矮小化」という方向に流れかねない大問題でもある。

そもそもこの制度においては、アウトカム評価のエビデンスさえ存在していないのに、どうしてインセンティブという考え方につながるのか、大いに疑問である。

どちらにしても今回の介護保険制度改正は、決してマイナーチェンジではなく、制度の理念さえ揺るがしかねない大改革となっているのだ。しかもそれは給付制限という実態を複雑なルールの中でカモフラージュした大改悪である。

マスコミもこの程度のことには気が付いて、広く国民に知らしめるべきであると思うのである。

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