介護報酬改訂議論の中で、昨年から盛んに議論されてきた混合介護については、このブログ記事でも何度も取り上げてきた。(参照:混合介護について

一連の記事を読んでもらうとわかるが、財源がないとして保険給付が縮小される中で、介護保険事業者が保険給付サービスだけに頼らず、保険外サービスの収益も含めて事業経営を考えていかねばならないという方向性は理解できるとしても、現在議論されている混合介護という形が、本当に求められている形なのかということについては、僕は懐疑的に捉えてきたつもりである。

そんななか、5/20に混合介護が先送りされることを各社が報道している。
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政府の規制改革推進会議は、介護保険と保険外サービスを組み合わせる「混合介護」の拡大を先送りする。厚生労働省や与党の一部などから、高所得者ばかりが恩恵を受ける不平等につながりかねない−などの批判の声があるからだ。
同会議は当初、運用開始にあたり混合介護の事業者向けのガイドライン(指針)を2017年内につくるよう厚労省に求めていた。しかし、こうした批判を受け、5月23日に公表する答申では「2018年度上期」に「ルール整理」するとのあいまいな表現に後退するとみられる。これにより、年内の指針策定は難しく、混合介護の拡大運用は遅れる見通しとなった。
(5/20のネットニュースより)
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先送りされる混合介護とは、介護保険給付対象サービスと保険外サービスを同時一体的に提供しようというものだ。例えば訪問介護で、要介護者の生活援助(家事援助)を行いながら、同時一体的に要介護者以外の家族の食事や掃除等を行い、「介護報酬+保険外の自由設定価格」の料金を徴収するという形が考えられていた。

しかしそうした形ではない「混合介護」はすでに合法的におこなわれている。介護保険の指定事業所であっても、保険外サービスの提供により、契約で定めた料金を徴収することは認められているからだ。

介護保険給付の対象となるサービスと明確に区分されるサービスについては、次のような方法により別の料金設定(保険外料金)することも可能である。
 
1. 当該サービスが保険給付の対象とならないことを説明し、理解を得る
 
2. 当該事業の目的、運営方針、利用料等が事業所の運営規定とは別に定められている
 
3. 会計が指定事業の会計と区分されている
 
4.ただし、当該別サービスを行うことにより、指定業所としての人員配置、設備基準等に低下がある場合、介護報酬の減算や、指定取消を含めた指導の対象となることに留意が必要。


よって通所介護で、人員設備基準の低下がない形での、保険外サービス利用者の受け入れは現在でも可能である。

事業化されている保険外サービスとしては、訪問介護におけるそれが最もポピュラーである。保険給付の対象となっていないサービスの料金を契約で定めて、保険給付サービスの前後に、時間を明確に区切って保険外サービスを利用することは可能だ。時間区分さえ明確になっていれば、保険給付サービスと保険外サービスを連続的に行うことも可能である。

今回先送りされた混合介護とは、保険給付サービスと保険外サービスとを同時一体的に行うというもので、それによりサービス事業者の収益が上がることが期待でき、従業者の給与引き上げにもつながるという理由づけがされていたが、果たしてそうなのだろかと疑問を呈し続けてきた。

保険給付サービスと保険外サービスを同時一体的に行うことで、従業者の手間や労力は増えることは確実で、介護事故も増える可能性が高い。

保険外サービスを一体的に提供し、収益が上がる構造になることを理由に、保険給付単価が下げられはしないのかという危惧もぬぐい切れない。(※むしろ保険給付サービスと時間を別にすれば可能な保険外サービスを、わざわざ同時一体的に行うことを推奨する意味は、同時一体的に保険外収益を得ることができるという飴の替わりに、保険給付は下げるという鞭が隠されていると疑う人は多いのではないだろうか。)

厚労省内部や与党から「保険外の負担ができない人がサービスを受けにくくなる」などと慎重意見が出されるのもうなづける。

そもそも要介護者(もしくは要支援者)以外の家族の家事支援等をサービスとして行うことは、介護保険の理念である、「自立支援」と矛盾するし、そうしたサービスを保険給付と同時一体的に提供するとしたら、自立を支援しないサービスプランを不適切としてきた行政指導とも整合性が取れなくなり、介護保険制度の理念自体を揺るがす問題になりかねない。

そのような諸々のことを鑑みると、今回の先送りは適切な判断であったと言えよう。

しかしこのことによって次期介護報酬の議論の中心は、2018(平成30)年度介護報酬改定から、自立支援に向けたインセンティブの実現に向かうのではないかと危惧している。(参照:自立支援に向けたインセンティブは実現するのか

そうなることは介護保険制度における自立支援の矮小化という結果しかもたらさないと思われるからである。

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