このブログで何度も指摘しているように、地域包括ケアシステムとは、住み慣れた地域で暮らし続けるために、身体機能や認知機能に応じた早めの住み替えを推し進めるシステムである。ある意味それは「自宅」に住み続けることにこだわらないという意味だ。
そのためこのシステムの定義は「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみな らず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常 生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」とされているのである。
その住み替え先の一つにサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住と略)があるが、7日の朝日新聞デジタルは、「サ高住の事故、1年半で3千件超 半数以上、個室で発生」という記事をネット配信し、その中でサービス付き高齢者向け住宅での事故の内訳と死因の内訳という図も公開している。
サ高住は自立した人ばかりが生活する場ではなく、介護の必要な高齢者も生活することを目的としている住宅である。
しかし特定施設の指定を受けていないサ高住は、介護施設のように暮らしの場に介護職員が配置され介護サービスが提供されるわけではなく、身体介護等のサービスは外付けであり、サ高住としての基本サービスは見守りと生活相談だけである。その見守にしても、常時見守っているわけではなく、定期的な安否確認程度の見守りである。(※ただし、サ高住が特定施設の指定を受けている場合は、特定施設としての職員配置や介護サービスはそこにあることになる。)
そうした施設に要介護状態区分の高い人や、認知症の症状が出てきた人が入居しているのが実情だから、個室内の事故が増えるのは当然であるし、サ高住の中で、サービスを受けていない時間帯に「孤独死」状態で自然死することだって当然あり得ることだ。
勿論、そうした事故を分析して、防ぐことができるものを防いでいく必要はある。例えば配信記事の事故内訳の図解で示されている配薬ミスについては、サ高住の問題というより、そこで提供されている外部サービス事業者(おそらく訪問看護か?)の職員のミスで生じた介護事故なのだから、外部サービス事業者側が同じミスを起こさないように注意すべきである。そのために誤薬や誤嚥・誤飲については、すべて事故報告を求める必要があると思う。
安否確認の巡回についても、よりきめ細かく対応するためのルールを作ったほうが良いのではないかという議論があっても良いだろう。どれだけのきめ細かな対応が可能かという視点から、身の丈に応じた利用者を選別するという視点が求められてよいし、サ高住の個別の状況がより細かく利用者に対し情報提供されるべきだろう。
しかし認知症の人を受け入れながら、徘徊や行方不明が問題になると、そうした事故を防ぐために、サ高住のプライベート空間が密室化される恐れが生ずる。
以前も指摘したことがあるが、サ高住に住んでいる「運動能力の衰えていない認知症の高齢者」の外部サービスが、定期巡回・随時対応型訪問介護看護である場合は、その巡回時間に利用者がそこにいてくれないと困るわけである。そうなるとサービス付き高齢者向け住宅の基本機能である、「見守りサービス」は、認知症高齢者については、「外に出さない見守り」になってしまう可能性が高い。その状況に徘徊・行方不明を防ぐという目的が加わると、その理屈は正当化され、外に出さない見守りが常態化する。
その結果、サービス付き高齢者向け住宅から一歩も出ないで、そこだけで暮らしが完結させられる認知症高齢者が出現してくる。しかもそこではいわゆる『囲い込み』により、外部の介護サービスが利用者本位とは程遠い状態で過剰に提供され、利用者をサ高住から一歩も出さないようなケースも増えていくだろう。
これは果たしで住み慣れた地域で暮らし続ける、という意味になるのだろうか?それはもはや幻想地域と呼ばれる状態で、事実上、地域から隔離された空間にならざるを得ない。
要介護度が高く、自力では移乗・移動動作が取れない人も同じ状態になりかねない。これらの人の場合は、外出させないという「見守り」を行わずとも、積極的に外出支援を行わない限り、すべての生活行為はサ高住の中で完結する。地域の空気を感じることがなく、生涯サ高住の中だけで生活支援を受けて終わりという高齢者が増えていくというのが、住まいとケアを分離した場所で、生活支援を受ける人が増える社会の近未来像である。
それが果たして地域包括ケアシステムといえるのだろうか。はなはだ疑問である。

日総研出版社主催・看取り介護セミナーのお申込みは、こちらからダウンロードしてください。
※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。
北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。
「介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料のインターネットでのお申し込みはこちらからお願いします。
「人を語らずして介護を語るな 全3シリーズ」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。)