来年4月からの介護報酬改定議論に関連して、僕はこのブログの中で、通所介護のレスパイトケアの部分の報酬がさらに削られる可能性が高いことを再三指摘してきた。

それはこれまでの議論の流れの中から読み取ることができるものであり、衆議院本会議を18日に通過した改正法案にも、間接的にその方向性を読み取ることができる文言がちりばめられていた。

ところで20日に行われた「財政制度等審議会」の会合では、財務省からこのことについての直接的な指摘が行われ、いよいよ報酬削減に向けた議論が俎上にのぼらされた。財務省の主張は次のようなものだ。

マイナス2.27%とされた前回改定の影響をうけた2016年度経営概況調査(昨年末、厚労省が公開)結果によると、施設・事業所双方の2015年度の全21種類のサービスのうち16種類で収益が悪化していた。利益率の平均は改定前の前年度より1.1ポイント低い3.8%である。この数字は中小企業の平均(2014年度:3.6%)とほぼ同じレベルだった。その中で訪問介護は5.5%、通所介護は6.3%と、まだまだ高収益を挙げ続けている。

財務省はこうした結果を取り上げ、「在宅サービスの利益率は高水準にとどまっている」と説明した。そのうえで、「基本報酬の減算措置も含めた適正化を図るべき」と主張し、「機能訓練などの自立支援・重度化防止に向けたサービスがほとんど実施されていない場合」に減額を適用すべきだとした。さらに基本報酬の高い小規模な通所介護事業所ほど、「個別機能訓練加算」の取得率が低い現状も課題だとしている。

財務省が言う適正化とは、民間中小企業レベルまで収益率を下げろという意味だから、通所介護の機能訓練を行っていない時間の給付費用をさらに削減せよという意見であり、このことに関しては、厚労省もさしたる認識の差がないように見受けられ、長時間通所介護を中心に、基本サービス費の更なる削減が現実味を帯びてきている。

しかしその理屈は正当といえるのだろうか。

通所介護の収益率は引き続き高いというが、27年度報酬改定以降、事業廃止した通所介護事業所が目立っている。そうした事業者は、収益を挙げられず経営不振に陥ったという意味である。しかもそうした閉鎖・廃止された事業者の収支状況は、経営概況調査の数字には反映されない。現に運営している事業者の数字だけを取り上げて、事業閉鎖に追い込まれた事業者の窮状を無視した経営実態評価はあり得るのだろうか。

現に運営を続けて収益を挙げている事業所にしても、報酬削減により経営状態が悪化しないようにする努力は、もともと低く抑えられた従業員の給与水準に支えられたものであり、そうした従業者のさらなる給与削減は、人手不足の折難しいことから、収益を挙げている小規模通所介護事業所の経営者の給与水準は、民間の中小企業よりかなり低く抑えられている場合が多い。中には従業員より、経営者の給与のほうが低く抑えられているという逆転事業者も珍しくない。

そうした中での収益率である。それは「儲け過ぎ」というにはあたらないものである。

ところで比較対象としている民間の中小企業とはどういう事業者なのか?

中小企業という言葉から、従業員が数人の零細事業者をイメージする人も多いと思えるが、実際の中小企業の定義は、サービス業であれば、資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人とされている。

それに比べ小規模通所介護事業者とは、定員が18人以下で全従業者の数も10人に満たない事業者が多いのだから、100人近くの従業者がいて、資本金が何千万円単位で経済活動を行う中から収益を挙げている民間企業と比べるのもどうかと思う。

収益率は似通ったとしても、そこで得られている収益金額には大きな差があるのではないのか?

そもそも通所介護の収益が高いという理由で、この分の報酬を削ったら、全体の収益率は民間中小企業を下回ることになるが、その時は民間中小企業並みの収益率になるように、ほかのサービスの報酬を上げてくれるのだろうか。そんなことはあるまい。

つまり収益率にしても、それと比較する中小企業にしても、都合の良い数字や比較対象に終始して、何が何でも給付費用を削減することありきの指摘につなげているとしか思えない。

厳しい介護報酬であっても、創意と工夫で事業経営を続けている事業者が、あたかも儲け過ぎであるかのように、「適正化」という言葉で報酬減を求め、さらに締め付けを厳しくしていく介護報酬のあり方は、有能な個人事業主がこの業界を去り、大規模法人の寡占化の中で、効率性だけが求められるサービス運営スタイルを生み、高品質な暮らしの支援を失ってしまう危険性を高める。

自立支援という錦の旗印を掲げながら、その方法論が身体機能に特化してアプローチする医学的リハビリテーションエクササイズの実施に偏って考えられ、その方法論の実施を給付抑制という方向に目的外使用する先には、光の当たらない影で震える高齢要介護者の姿しか見えなくなりつつある。

見えない涙を、さらに見えにくくする介護報酬改定にしか思えない。
新刊介護の誇り
新刊「介護の誇り」(5月11日刊行予定)の紹介ページはこちらをクリックしてください。

日総研出版社主催・看取り介護セミナーのお申込みは、こちらからダウンロードしてください
※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。

北海道介護福祉道場あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料のインターネットでのお申し込みはこちらからお願いします。
人を語らずして介護を語るな 全3シリーズ」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。