昨日、「長い爪」で伝えたかったことという記事を書き、僕の著作本の中のそのコラムでは、誰が何をすべきかという問題ではなく、介護のプロとしての「気づく能力」について問題提起していることを解説した。

その気づきとは、利用者の身体状況の変化は勿論であるが、その人の周囲に存在する人々の気持ちはどうかという部分にも配慮した、「気づき」であってほしいと思う。

僕の著作本のコラムに関して言えば、それは自分の家族の身体状況に気が付いてくれないことを哀しむ家族の感情ということになる。

相手の立場に立つという言葉を、建前ではなく本音にしたいものだ。そうしない限り、「利用者本位」などという言葉は絵空事になってしまう。

そして「長い爪」というコラムを読んだ方々には、もう一つだけ考えてほしいことがある。

このコラムに登場した、爪を切ってもらっていなかった利用者の家族は、実在する人である。

爪が伸びる状況を撮影し続けたその方は、決して親の爪を切るのが面倒くさかったわけではない。親を信頼して任せられる場所として選択した有料老人ホームの職員であれば、何日も爪が伸びた状態に気がつかないわけがないと信じたかっただけなのである。それはその有料老人ホームが、今後も自分の親を安心して任せることができる場所なのかという問題だったのである。

結果的にこの方は、有料老人ホームの職員に爪を切ってもらうことを、「あきらめて」、爪切りを借り、その時の職員の対応に心の中で涙を流しながら、自らの手で親の爪を切った後も、そのことについて有料老人ホームの職員に対し、一言も文句を言っていないのである。

ホームに対する苦情も挙げることなく、講演に訪れた講師に愚痴をこぼすだけで、他には一切文句を言っていないのだ。

我々の業界には、「クレーマー」という言葉や、「モンスター」という言葉があることでもわかるように、事業者の過失がない問題にもかかわらず、いちいち苦情を挙げてくる家族も存在することは事実だ。そのことで業務に支障をきたすという例があることも知っている。しかしそれは全体から見るとごくわずかであり、決してクレーマーがマジョリティとは言えない。

むしろ事業者の不適切な対応に対して、心の中で文句を言ったとしても、直接事業者に文句を言えない人のほうが圧倒的に多い。

その理由は、言葉は悪いがある意味、介護事業者が人質をとっているように思われているためである。不適切な対応に対しクレームを挙げることで、そのあとサービス利用している自分の身内が、さらに不適切な扱いを受け、結果的に以前よりサービスの質が低下し、不利益を被ることを恐れているからである。

クレームを挙げたその場では謝罪されたとしても、そのあと、そのことを面白く思わなかったとしたら、自分たちの目の届かない場所で、身内が陰湿ないじめを受けることがないだろうかという疑念が払しょくできない人も多い。

カチンときた職員が、人前では一見適切な介護をしているように見せて、夜勤の際に1対1の対応場面で、そのうっぷんを晴らすような対応に出ないかと、いらぬことを考えてしまうこともあるだろう。家族による隠し撮り映像に、介護施設等の職員の信じられない暴言等が写されていたという報道があった過去を考えても、その心配は杞憂とは言い切れない。

そんな事業者ばかりではないといっても、家族がそう考えるのはある意味、人情であり、やむを得ないことではないだろうか。

そうしたことを踏まえると、我々介護事業関係者に求められるものは、物言えぬ家族の立場に立って、心の声を聴くという姿勢である。家族が心配になる対応を、できるだけなくすということである。

クレーマーの対極に存在する声なき声を聴き、沈黙の哀しみを慮(おもんばか)るということである。対人援助に携わるものであれば、そこまでの責任が求められるのではないだろうか。それが面倒くさいと思う人は、この業界に足を踏み入れてはならないのではないだろうか。

我々が相対するのは利用者の方々であるが、人の暮らしに関わる以上、その周辺に存在する様々な環境因子に介入せざるを得ない。そこでは利用者が背負った人生や家族関係にも、注意深く目を向けることが求められてくる。そこに鈍感になってしまえば、喜怒哀楽を持つ人の暮らしの支援行為は成り立たないと思うのである。

介護という職業は、目の前の人を幸せにすることで、その背景に存在する様々な人にまで、笑顔と幸福感を広げられる素晴らしい職業である。幸せの樹形図を描くことができる職業である。

その樹形図が、哀しみや不安を広げる樹形図に置き換わらないように、細心の注意を払うのが、プロの技と、使命ではないだろうか。

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