地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案が、2/7(火)閣議決定された。

資料を読むと、制度改正の最大の目的は、制度の持続可能性を確保することであり、そのために高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止に、地域全体で取り組むとしており、「地域包括ケアシステムの深化・推進」という言葉が使われている。

そのために自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化等の取組の推進を介護保険法に規定するとし、その具体策として、市町村ごとに国から提供されたデータを分析して地域課題を明らかにし、介護保険事業(支援)計画を策定することとしている。そして国が示す適切な指標による実績評価を定期的に行って、公表が義務付けられた結果が目標を達成した市町村には、財政的インセンティブを付与するというものだ。

インセンティブとは、言うまでもなく、「行動を促す動機付け」・「目的を達成させるための刺激」であるが、この法律における財政的インセンティブとは、目標を達成した市町村に自由に使える交付金を増やすなどの支援をすることを意味するようである。

国が示している、その部分の資料が以下になる。
市町村へのインセンティブ
支援の規模や参考指標及び結果評価の具体的内容については17年中に決め、18年度から実施することになるが、現在示されている具体策としては、市町村に要介護認定や給付費のデータに基づく目標を作るよう求め。1人当たり給付費だけでなく、ケアマネジャーや看護師らが介護計画を検討する「地域ケア会議」の開催状況や介護職員への研修回数も評価対象にしたい考えだ。

これによって何が起こるだろうか。本当にこれによって、地域包括ケアシステムは深化し、介護予防効果が上がるだろうか。

インセンティブで思い出すのは、健康保険のメタボ検診の義務化と保険料のペナルティ議論である。しかし結局それは効果が見込めず実現しなかったのではなかったか?

介護予防だけ、交付金という餌をぶら下げることで効果が現れるだろうか。

この資料の中で、先進的取り組みが行われているという大分県と和光市の真実はどうなっているのだろう。その地域の実態について、僕のフェイスブックに届いている声としては、「保険者がケアプランに口を出して身体介護を生活援助にしようとしたり、生活援助を行政として認めないと公言していたり自費サービスを推奨したりしています。措置と同じような状況です。」と、決して先進的な取り組みとはいえない実態であると論評している人もいる。

おそらくこの財政インセンティブが必要ないという市町村はないだろう。そのために介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)は、市町村から過度な?要求が突きつけられ、事業参入業者に要介護度の改善など結果が求められるだろう。しかしその結果とは、必ずしも介護予防や暮らしの質に関わるものではなく、場合によっては要介護度の改善等の結果があらかじめ見込めない利用者の選別・排除につながる恐れがある。

自己責任という名の自己負担サービスも、今以上に求められてくる。

地域ケア会議は、地域包括ケアシステムの肝となる大事な会議であるが、アウトカム評価が難しいゆえに、その評価は開催回数が一番の評価になるのではないか。そうであれば困難ケースをじっくり多職種で話し合うのではなく、課題解決につながるという結果を得やすいケースの検討が、「アリバイ作り」として行われる可能性が高い。

「ケアプラン適正化事業」の名乗る市町村の締め付けや、ローカルルールもさらに増える可能性が高い。そもそも地域の特性に応じたサービスの効率化と重点化との行き着く結果は、ケアプランの標準化とは相反する、地域ごとのルールに応じたケアプランの作成でしかない。それはある意味、保険者の担当職員の価値観の押し付けで終わる可能性が高い。ケアマネジメントの完全否定も横行するだろう。

居宅介護支援事業所の介護支援専門員に対する地域行政の介入は、今以上に増えるだろう。それが果たしてケアプランの質は向上するのかということについては、すでにそうならないという結論が示されている。(参照:根拠なきローカルルールでどんな地域社会ができるというのか

介護の専門家ではない専門職が中心的役割を担って分析するデータは、実生活に即さないものになるやも知れない。

そうなると総合事業の締め付けは大きくなるし、この部分の単価は下げられるだけ下がるということになり、要介護度の改善などに対する市町村独自の報酬算定ルールや事業サン参入ルールが適用されるかもしれない。これは介護サービス事業者にとって厳しいものになる。

だからといってその事業に参入しない事業者が生き残っていけるだろうか?今後は総合事業しかサービス利用できないカテゴリーに属する人が増えるわけであり、軽介護者の人はここにくくられていく。

その人たちが、いざ介護状態区分が重度化して、介護サービス利用が必要になったときに、総合事業で囲い込まれたサービスの外側のサービスを利用するかというと、その可能性はきわめて低くなる。

つまり今後の介護事業は、収益部門を介護サービスに置くとして、ひとつのサービスに偏らず、多角的経営が求められるとともに、保険外サービスでそれを補完しながら、市町村の総合事業は顧客確保の手立てとして別に見ていくという事業規模の拡大が必須だ。よって事業体力の脆弱な小規模事業者には、非常に厳しい法改正といえる。

しかも資料を読むと、障がい者サービスと高齢者サービスのミクスサービスや、保険事業と保険外事業の混合介護が推進されると取れる内容になっている。これも経営規模の小さな事業者には厳しい経営スタイルといえるのではないか。

地域密着型通所介護の、市町村による指定制限が法制化されることと相まって、小規模通所介護事業を中心にフライチャンズ展開していくという経営モデルは成立しなくなるのではないだろうか。

そして将来的に介護保険サービスは、サービス効率化・重点化の先に地域における巨大法人の寡占状態を招き、癒着の温床になるやも知れない。

それが考えすぎだと良いのだが・・・。

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