特養から老健に職場を変えて、一番感じる「相違点」は、老健のほうが圧倒的に規則・規制が多いという点である。

これはある意味やむを得ないことのように思う。それぞれの施設の成り立ちや目的、性格が異なるからである。

例えば酒や煙草は、老健では基本的に禁止しているところが多いそうである。(※正確なデータに基づいた見解ではないので、間違っているという意見があれば指摘していただきたい。)そのことにも根拠や理由があるといってよい。

老健の基準省令において規程されている基本方針には「看護、医学的管理の下における〜」という一文があり(特養の基準にはこの一文がない)、老健でサービスを受ける限り、その管理下での制限というものは存在して当然とも言える。

老健は基本的に在宅復帰を目指すために、機能回復を図ることを目的にしたリハビリテーションを実施する滞在施設であるのに対し、特養は生活施設であり、そこで一生涯暮らし続ける人もいるという点で、嗜好品についての考え方にも大きな差が出てくるのはやむを得ないところだろう。

以前僕が勤めていた特養の場合は、嗜好品に対するルールは比較的緩やかだった。煙草は喫煙場所の指定はあるものの、喫煙という行為そのものは禁止されていなかった。勿論、火の取り扱いができない人の制限はあったが、それは一般社会でも同じことだろう。

家族によるおやつの持ち込みも、食事制限のある方以外は、家族の良識に任されている状態で、問題があれば都度担当者職員からお話させていただくということで済んでいた。

おやつなどの食料品の持込について言えば、老健の場合、利用者間でおすそ分けしあうという問題があり、何らかの制限をしないと、栄養管理上の大きな問題になりかねないが、特養の場合も同じ状態がないとはいえないものの、重度介護者が多いという背景から、利用者同士で食べ物の交換を行うことができる人は限られていたので、職員が注意して居れば対応可能であったということもある。

お酒についても、僕自身ものん兵衛であることから、飲ませないことより、どうしたら飲むことが許されるかという方向で考えていた。そもそもそれが唯一の愉しみである人もいて、長年飲酒習慣を持っているのに、特養に入所するという理由だけで、その習慣を強制的に禁ずるのは問題だと考えていた。

アルコール中毒の既往歴がなく、特段禁酒しなければならない身体状況の人以外は、晩酌するのも自由だったし、施設側から日本酒やビールなどを提供する行事も毎月のようにあった。それで何かが問題となるようなこともなかった。

そんな特養においても、飲酒が許されるかどうか議論になったケースがある。

例えば糖尿病があるのに、お酒を飲んでよいのかという問題である。健康面を考えると当然、飲酒は駄目なわけである。しかし制限はストレスにもなる。その場合は、医師とも相談しながら、数値が悪化しないのであれば、○○〜程度なら良いのではないかなどと、できるだけ飲む機会を奪わないように考えたことも多い。ただし糖尿病の場合は、合併症で苦しむことは最悪の状態を招くので、飲酒以外のストレス解消法を模索することが多かった。何事もバランスである。

ショートステイの利用者で、朝からお酒を飲む人がいた。朝ごはんはほとんど食べず、日本酒をコップ一杯飲んで終わりという人である。この場合も、ずっと飲み続けているわけではなく、昼や夜はご飯も食べてくれるので、そういう生活を長年続けているのだから、ショートステイの期間だけ、そのことを許さないというのも意味がないように思えた。最終的には利用者ご本人の判断に任せたが、それで特段問題があったわけではなく、何年間かその状態でショート利用は継続していた。

どちらにしても特養の場合は、こうした問題は、利用者の判断力が衰えていない限り、施設側の決め事を強要するのではなく、リスク等の説明責任を果たした上での、利用者自身が判断するべきだろうと思う。

公衆道徳を守るということは当然なので、共同生活場所のルールは守ってもらう必要はあるが、集団生活ではないので、その言葉で、利用者が本来持つべき個人の権利を侵害する規制が許されるわけではないという視点も必要である。(参照:特養に集団生活の論理は通用しないぞ

バイスティックの7原則のひとつである、「自己決定」の尊重は、ここでも貫かれる必要がある。勿論、自己決定とは、すべてが許容される無制限なものではないので、制限を伴うものだという理解があって当然である。

同時に僕たちソーシャルワーカーには、できないことよりも、できることを探す専門家であり、制限する専門家ではなく、制限を緩やかにできないかを探る専門家であろうとする姿勢が求められるのだと思う。

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