地域包括ケアシステムとは、日常生活圏域で、急性期入院を除く医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスという5つのサービスを、一体的かつ適切に利用できる提供体制を全国につくるというものである。
しかしその5つの要素がすべて日常生活圏域に存在するとは限らない。限界集落といわれる地域ではなくとも、地方の小さな町の日常生活圏域すべてにおいて、この5つの要素を一体的にサービス提供するのは至難の業である。
このため2013年3月に、地域包括ケアシステム研究会がまとめた「地域包括ケアシステムの構築における 今後の検討のための論点」では、地域包括ケアシステムについて、「地域包括ケアシステムでは、生活の基盤として必要な住まいが整備され、そのなかで高齢者本人の希望にかなった住まい方が確保されていることが前提になる」と解説している。
つまり高齢期になった場合、心身機能の衰えが考えられ、その場合には心身機能に応じた、「住み替え」によって、現在の状況に合った居所を確保し、そのあらたな「住まい」を基盤として医療・介護・予防・生活支援サービスが一体的・適切に提供される仕組みであるという意味になり、当初の5つの要素が横並びとされた概念うち、一番先に「住まい」の確保を優先して考えるシステムになっているのである。
このことは高齢者が必要とするサービスがすべて存在する日常圏域に住み替えるという意味にとどまらない。
地域包括ケアシステムといっても、そのシステムを構築した地域に住んでいれば、自動的にサービスが自らに向けて提供されるわけではなく、それらのサービスを一体的に適切に利用するためには、サービスを利用する側の能力も必要とされるという側面もある。
そうであれば判断能力の衰えた認知症の人などは、このシステムの中で適切なサービスを受けるために、インフォーマルもしくはフォーマルな支援を必要とする場合が多いということになる。勿論、支援チームにはアウトリーチの視点が求められるので、声なき声を拾い上げ、積極的に介入していくことも求められるが、支援ニーズのある人すべてを発見できるわけではないのだから、自分がいま住んでいる日常生活圏域の範囲内で、自らのニーズを代弁してくれる誰かのいる場所への住み替えという意味も含まれている。
そのことを示した概念が、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみな らず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」というものである。
介護サービス関係者であれば、「地域包括ケアシステムとは何か?」という質問に対し、即座にこの概念を示すことができなければならない。そうでなければこのシステムの中で自分が何の役割を担い、何をすべきかが見えてこない恐れがある。
ところでこのシステムは、地域で創るシステムであるが、居宅サービスのみのシステムではなく、施設サービスをも含めた、地域全体のシステムであるという理解が必要だ。
よって介護施設は、このシステムの中でそれぞれ役割を持っており、その役割に沿ったサービスの質が求められてくる。場合によっては、現在の体質を変えなければ、地域包括ケアシステムの中に組み入れられない施設となり、消えてなくなるべき施設というレッテルを貼られる。
例えば特養の場合は、重介護者の暮らしの場として、住み替えの候補となるべき居所である必要がある。そうであれば特養がその住み替え先の一つとして選択されるためには、施設サービスという概念を飛び越えて、重度要介護高齢者の終末期を含めた暮らしを支える、ケア付き集合住宅としての機能が求められていくのは必然の結果である。
集団生活という言葉に代表されるような、施設側の価値観やルールを押し付ける旧態然の施設サービスでは、このシステムから退場しなければならない。(参照:特養に集団生活の論理は通用しないぞ)
療養型老健を除く老健施設は、そのリハビリ機能を最大限に発揮し、身体機能を高めて地域で暮らし続けることを支援する施設機能をさらに求められるが、それは一度きりの機能ではなく、加齢とともに身体機能が衰えるたびに、何度も繰り返し利用して、身体機能の向上を図る施設である必要がある。それと同時に、最終的には回復不能の終末期にも対応できる施設としての多機能性が求められてくる。
つまり老健が地域包括ケアシステムの中で担うべき機能は、看護小規模多機能型居宅介護の施設版といった機能で、それを「大規模多機能型施設」と表現しても良いのかもしれない。
療養型老健と介護療養型医療施設(2018年度からさらに6年の経過措置で存続)及び、それに替わる「介護医療院」については、特養がカバーできるキャパを超えた重度医療対応者の暮らしを支える場所として存在することになるのだろう。これらの施設では、経管栄養の人が数多くなると思われるが、同時にリビングウイルの視点から、食事の経口摂取が出来なくなった場合にどうしたいのかという利用者本人の意思を、意思確認できる間に確認しておく運動を推進する拠点となっても良いのではないだろうか。
こうした機能を持った施設が、日常生活圏域の中に存在している中で、その他の介護サービスや医療サービス、生活支援が複合的に提供されるシステムが求められているのであり、そういう意味で、地域包括ケアシステムの完成形とは、居宅サービスと施設サービスの区分がなくなる体制のことであるともいえるわけである。
ひとついえることは、そのシステムの概念をあいまいなままにして、地域包括ケアシステムとは何かという質問に満足な回答をできない人が、地域包括ケアシステムをお題目のように唱えても意味がないということだ。
自分の所属事業だけの方法論も考えてもシステムにはならないということだ。
さらに言えば、自らが縦割りの対応しかできない人が、このシステムの中で多職種協働が必要だと語っても、何の説得力も持たないということだ。
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