老人保健施設は、要介護老人の心身の自立を支援し、家庭への復帰を目指す施設として、1986年 11月の老人保健法改正により創設された。

法の精神と目的に沿った老健の機能とは、疾病等の急性期治療を終え在宅復帰するために入所した利用者に対し、個別リハビリテーションを含んだ医学的・治療的リハビリーテーションエクササイズを中心にサービス提供して、身体機能の改善を目指すことである。その結果として在宅復帰の目的が遂げられることを目指すものだ。

この機能と目的に着目した表現として、老健は「中間施設」と呼ばれることも多い。つまり本来の中間施設とは、医療機関と自宅の中間という意味であった。

2000年に介護保険法が施行されたことにより、老健も介護保険法の中に、介護老人保健施設として位置づけられるようになったが、その機能自体は変えられなかった。

しかしこの頃から、老健の中間施設機能に変化が見られ、医療機関と自宅をつなぐ施設というより、特養入所の待機施設という色合いも濃くなり、在宅復帰率の低下と入所期間の長期化が問題となり始めた。

2002年に老健局長に就任した中村秀一氏は、戦後初めて診療報酬をマイナス改定とするなど、豪腕といわれた人であり、後に「地域包括ケアシステム」の教科書的役割を担う「2015年の高齢者介護」を作った人であるが、その中村氏が就任直後に、「在宅復帰機能のない老健は看板を下ろせ」と老健批判の狼煙を上げ、2003年報酬改訂では、老健から訪問リハビリが派遣できるようにして在宅復帰支援機能を強化した。

それは2006年の報酬改定時の試行的退所とか、在宅復帰率の実績加算の新設につながっていった。

その後、医療及び介護療養病床の廃止論議の中で、廃止後の入院患者及び利用者の受け皿としての転換先として、老健が考えられるようになり、療養型老健が創設されるなど、長期療養する老健施設も生まれた。

さらに地域包括ケアシステムは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」(平成25年3月地域包括ケアシステム研究会)と定義づけされ、要介護高齢者の暮らしの場の多様化が求められてきたことから、老健が特養や、グループホーム、サ高住等へつなぐ間のリハビリ施設としての役割も否定されなくなった。

そうした中で老健は大別して、療養型、一般型、在宅復帰強化型という分類化がされていったが、そこでは同時にターミナルケアの役割も期待されるようになり、2015年の介護報酬改定時に示された資料(改定の要点)では、「老健でのターミナルケア・看取りは、利用者の長期間の在宅療養支援の結果として行われるものであり、このような観点からターミナルケア・看取りを評価。」と解説されている。

つまり老健の在宅復帰機能とターミナルケアの機能は、相反する機能ではなく、在宅復帰を目指す先に、高齢期の終末をも支える機能を併せ持つという意味で、両者は矛盾しないと考える必要があるのだ。

具体的に言えば、在宅復帰した人に対しては、老健からの訪問リハビリなどで、退所後のフォローを行いながら身体機能維持に努めるが、加齢とともに身体機能を維持できなくなるケースも多く、そのために一定期間自宅等で過ごした後に老健に再入所し、再び在宅復帰を目指すというケースが増えてくる。こうした利用を複数回繰り返すことで、ずっと施設入所したまままではなく、一定期間は自宅等で過ごすことができる人がいる。そしてそれらの人が老衰などで回復不能な終末期になった時点で、なじみの職員がいる老健で終末期を過ごすことを求め、老健に入所してターミナルケアを受けるというケースが考えられる。

このように老健で行われるターミナルケアは、老健で過ごしている人がそこで身体状況が変化して終末期を迎えるというケースにととまらず、何度か老健を利用しながら在宅で生活していた利用者が、自宅等で終末期の状態になり、その対応が自宅等では難しいことを理由にして、ターミナルケアを受けることを目的に、老健に入所するというケースがあるということだ。

特養の看取り介護では、このようなケースはほとんど見られない。そういう意味では、老健のターミナルケアとは、住み慣れた地域で暮らし続ける取り組みを行った結果、最終的に安心・安楽の場所として選択されるという意味で、それは地域包括ケアシステムの中で求められる重要な役割といえるのではないだろうか。

そう考えると、地域包括ケアシステムの中での老健の役割とは、在宅復帰を目的とした施設内のリハビリテーション機能だけではなく、要介護高齢者が住みなれた地域に戻った後の、利用者の居所における訪問リハビリテーション機能を併せ持つと同時に、最終的には加齢等の理由で回復不能になった場合であっても、最期まできちんと対応できるターミナルケア機能を持つことが求められているといえよう。

来るべき2017年には、こうした老健の機能強化が課題となり、ターミナルケアができる老健が、より一層求められるであろう。
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