特養の基準省令(厚生省令第三十九号)では、(基本方針)として第一条の二に、「指定介護老人福祉施設は、施設サービス計画に基づき、可能な限り、居宅における生活への復帰を念頭に置いて〜。(以下略)」と、在宅復帰を念頭に置く義務が定めている。

このことを否定するつもりはないが、特養は仮住まいで、自宅こそがその人にとっての心のやすらぐ居所であると考える必要もないだろう。

地域包括ケアシステムの中で、特養が重度要介護者の住み替え場所のひとつとして選択され、そこでは看取り介護の機能を併せ持つ終生施設としても期待される現状を考えた場合、そこで住みつづけることが出来るように、品質の高いケアサービスを提供するという考え方があっても良いだろう。

誰しも自分の住み慣れた自宅で生活を続けたいと考えるのは当然である。しかし地域包括ケアシステム研究会が2013年3月にまとめた報告書では、地域包括ケアシステムの定義を「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみな らず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(日常 生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」としているように、人類がかつて経験したことがない超高齢社会において、心身の状態に応じた住み替えは、ニーズに沿った住宅の確保という意味なのであり、それはサ高住だけではなく、グループホームや特養など、広く考えられて良いものなのである。

いやそれは、広く考えられなければならないものだ、といえるのかもしれない。そうしないと真のニーズに応じられない可能性があるからだ。

住み替える人にとって、住み替えは勇気がいることだし、本位でない場合もあるだろう。高齢者になればなるほど、その思いは強いだろう。

そうであるからこそ、特養に入所するケースでは、利用者の意に沿わない形で、家族が説得して、(あるいは説得もせず無理やりという形で)利用者本人が納得しないまま入所するというケースも少なくない。

そのとき僕たちは、「ここは家より、ずっと良い場所です」とアピールすべきだろうか?僕はそうは思わない。僕たちがいくら頑張っても、清潔な環境と暖かいお部屋で、おいしい食事や希望に沿う介護を提供したとしても、古くて寒いお家であっても、住みなれた家で家族に囲まれて暮らすことに勝るものはないと考える人がいて当然である。

そうであれば、「ここはお家にかなわないし、僕たちは家族になれないけれど、住んでみたら満更ではないと思えるようにお手伝いしますから、なんとか暮らしてみてくれませんか」という思いを持って、そうであってもいつかは、ここで暮らし続けたいと思えるように、「入所したいとは思わなかったが、入所した後は、住んでみたら、もうここから別の場所には行きたくない。」と思ってもらえるように、僕たち自身が知識を高め、技術を磨いて、ニーズに沿った高品質サービスを作り上げていくだけである。

その結果が、たまたま自宅に戻ることであっても良いが、常に「居宅における生活への復帰を念頭に置いて」考えて何かを行うことが、人の幸せに結び付くということでもあるまい。

今ここで笑顔になってもらえるために何をすべきか、ここでの暮らしが快適に思えるように、何が必要かを考えることこそが僕たちに求められており、僕たちにできることであって、特養という場所で、旅立ちの日まで過ごすことを目標にしたって、それは決して罪なことではないはずだ。

原則要介護3以上が入所基準となった現在、特養に入所する人たちの多くは、要介護3に区分される状態が固定化し、多くの方が身体機能上は回復困難で、徐々に衰えていく人たちである。その中には、家族介護の限界点に達して、最終的なセーフティネットの役割として特養に居所を求めてくる人たちがいる。

80歳代の人のインフォーマルな支援者も50歳代である。その人たちに十分なる愛があったとしても、それらの人も高齢者とともに老いていくわけである。

そうした人たちにとって、特養の介護の目的が在宅復帰であることは重荷にならないのだろうか。生活施設とか、暮らしの場とか表現される特養の在宅復帰機能は、目標ではなく結果であってよいし、それも、たまたまの結果であって何が悪いのだろうか。

そもそも特養が、利用者にとってのあらたな自宅になって何が悪いのだろう。

特養からの在宅復帰率が低いことを批判する人々は、そこにどんな問題があると考えているのだろう。

努力していないから在宅復帰が進まないのではなく、人が幸せに住むための、不断の努力をしている結果が、元の自宅を恋しく思わなくて良い暮らしにつながっているということに、考えが及ばないのはなぜだろう。

介護保険制度は、官僚や学者が考えて創り、直し続けているが、官僚や学者が考えて実現した安住の棲家など、この世のどこに存在しているというのだろうか。

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