先週の金曜日に、「認知症ドライバーの悲劇」という記事を書いたが、その同じ日に、横浜市で軽トラックが集団登校していた児童の列に突っ込み、小学1年生の児童一人が死亡し、そのほか児童8人を含む11人が重軽傷を負うという事故があった。
この事故の加害者は87歳の男性で、2013年11月に認知症の検査を受けて異常がなかったとされ、同12月に免許を更新している。この事実だけからいえば、この事故は認知症とは別の問題とされ、認知症が原因と考えられる死亡事故のデータには組み入れられないということになる。
しかし加害男性は、27日朝に横浜市磯子区の自宅を1人で出て、軽トラックで県内外を走行。事故を起こすまでの間、自宅には戻っておらず、夜間も軽トラックで移動していたという。逮捕前の聴取では「どうやって事故現場まで行ったのか、よく覚えていない」などと話していたという報道がされている。
このことを考えると、この男性も認知症の症状が出現していた可能性が高い。記憶力の低下は明らかである。つまり近直の免許更新の際の認知症検査の結果など、何も意味をなさないということだ。運転していた当日が、どのような状態であったのかということで、事故原因を検証せねば、本当に必要な対策には結びつかないのである。
アルツハイマー型認知症の場合、その原因となるアミロイドベータの脳内蓄積は、認知症の症状が出現する10年以上前から始まっていると考えられている。それがやがて脳内でタウタンパクに変質し、脳血管を圧迫し血流を止め、脳細胞を壊死させ症状が徐々に進行していく過程で、「運転動作はできるが、記憶力や判断能力が著しく衰えている人」を生んでいくのだ。
その理由は、運転という行為が、「手続き記憶」であり、海馬が大きく影響しているエピソード記憶と意味記憶とは異なり、小脳にその記憶がたまるという記憶の回路の違いによるものであることも明らかになっている。そして認知症の特徴は、「記憶力や判断力の衰えを自覚できない」ということでもあるのだから、周囲の人が強制的に運転をやめさせるか、手続き記憶だけでは運転できない車を作るか、どちらかでしか、こうした事故を阻止できない。
周囲の人が強制的に運転をやめさせるのは、周囲の人に、「運転できてしまう認知症の人がいる」ということを知らしめる必要があるし、そうであっても判断力や運転動作の一部は衰えており、それは車を凶器に変えるものだという理解と危機感がなければならない。今後、認知症の人が今以上に増える社会では、そうした啓もう活動は必要不可欠であり、地域包括ケアシステムの機能の一つに、運転できる認知症の人が運転しないようにする対策を、地域ごとに意識して組み込んでいく必要がある。
同時に、自動車製造メーカーのコンプライアンスとして、認知症になったら運転できない車の開発が求められ、それは自動運転以上に必要とされる技術であるという自覚がメーカーに求められると指摘したい。
今後増え続ける認知症の人が、手続き記憶だけで運転して事故を起こすことがないように、検査結果で運転するかどうかを判断するのではなく、認知症になったら運転できない自動車開発が自動車メーカーの責任と義務なのである。。
そしてそれはさほど困難なことではない。アルツハイマー型認知症の初期症状は、「エピソード記憶」の衰えから始まり、特にそれは新しいことが覚えられないという短期記憶の障害から始まる。それはこの病気が、情報処理をつかさどる、「海馬」周辺の血流障害が生ずることによって、新しい情報が海馬にたまらず記憶できないということなのだから、それを利用して、車のエンジンをかける際に、エピソード記憶である暗証番号を打ち込まないとエンジンがかからない車を開発すればよいだけの話で、それは技術的には極めて簡単であるし、開発費用もさほど掛からないし、車の購入費用がそれによって増加し、ユーザー負担が大幅に増えるということでもないように思われる。
28日の横浜の事故では、登校途中の小学1年生が命を奪われている。未来のある尊い命が、こんな風に奪われてしまうことを少しでも防ぐために、しなければならないこと、できることはたくさんあるはずだ。一日も早い対策をしなければ、似たような悲劇が日本中で繰り返されていくことになる。
国・政府も、このことの危機感を持ってほしいと思う。こんな悲劇はもうたくさんだ。
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