介護保険の対象となるサービスと、保険の対象外で利用者が全額を自己負担する保険外サービスをあわせて提供する「混合介護」が注目されている。
特に国側は、混合介護を大きく育てる方向に舵を切っており、公正取引委員会が混合介護を利用しやすくする弾力化措置を求める報告書をまとめるなどしている。
このことは事業者にとってもビジネスチャンスであり、保険給付と一体的に保険外サービスを提供できることで、介護職員の待遇改善にもなるとアピールする向きがある。さらには自由価格の導入で、消費者目線で対価に見合った良質のサービスを選ぶことにもつながり、事業者・消費者双方にメリットがあると主張する人がいる。
しかし僕はそう思わない。
混合介護で保険外サービスが上乗せされたとしても、それは現行の収益の上に、上乗せされるものではなく、厳しい財政事情を理由に、切り下げられた報酬の上に乗せられる対価に過ぎず、保険外のサービスの一部は、現行の保険給付サービスを切り捨てて、保険外化したものを含めての上乗せ分で、結果的にサービス提供すべき業務量が増えても、対価は今と変わらないか、下がる可能性さえある。
社会保障費の自然増分を半分に減らす政策がとられている我が国の現状を見据えると、混合介護は、単価の低さを薄利多売で乗り切らせようとする方策にしかすぎず、そのために保険サービスと保険外サービスを一体的に提供できるシステムに変えるために、規制を緩和させようというものだ。
例えば給付除外が検討されていた訪問介護の「生活援助」について、厚労省は要介護度の軽い人向けの給付を介護保険の対象から外す案を先送りする方向で検討に入り、代わりに、増え続ける給付費の抑制は必要との考え方から、事業者へ支払う介護報酬を2018年度の改定時に引き下げるというふうに方針を転換させた。
これは来年1月にも噂さえる、衆議院の解散総選挙がらみの動きとも思えてならないが、給付除外されなくてよかったということにはならず、今でも対価が低いサービスの、報酬単価がさらに下げられるという意味である。
すると現在は、20分〜45分で1.830円、45分以上で2.250円の報酬を得て、その中からヘルパーの給料や法定福利費、移動費用を支払いつつ収益を挙げていた状況から、さらに下がった単価で事業経営しなければならないということになる。
薄利多売といっても、訪問介護はサービス提供時間が単価となっているのだから、その部分の報酬が削減されれば、その時間と同時一体的に別収入が発生しないと、下がった分を補完することはできないわけである。そもそもこれだけ深刻な人手不足の時代に、前年より給与を下げて、最低賃金ぎりぎりで働かねばならないところに、人が張り付くわけもなく、事業者としては厳し介護報酬の中でも、人件費は削減できないのである。
そのような状況で、規制緩和して保険給付サービスと保険外サービスを一体的に提供するという意味になるが、当然そこではヘルパーの業務負担は増えるわけである。多少時給が挙がっても、より以上の業務負担がかかっては、人手不足は解消しないだろう。よって混合介護を普及させるという考え方は、事業者側が手放しで歓迎できる考え方ではないのである。
また自由価格の設定は、顧客である利用者の選択があるのだから、事業者間のサービス競争が行われ、自然に適正価格が生まれるという能天気な考え方がある。しかし介護サービスの消費者たる利用者は、心身に何らかの障害を持つ高齢者の方々である。その中には家族の助言を得られない認知症の人も含まれる。
それらの人がすべて、消費者として、適正価格のサービスを選択できるのだろうか?特にケアマネジメントを介さない保険外サービスで、法外価格の不適切サービスを売りつけられる恐れはないのだろうか?大いに危惧される点がここにある。
そもそも家庭という密室で、同時一体的に別サービスが提供される状況で、それらが消費者にとって適正なサービスとなり得る条件は、徹底的な性善説のもと、事業者側に高い倫理観が存在することである。すべての事業者がそうではあるまい。
当然そこでは利用者から不当利益を搾取しようと企む事業者も出てくるわけである。そしてそのことに気づいて、そうした悪徳事業者が淘汰されてなくなるという保障もない。すべての利用者が、賢い消費者で、正しい選択ができるとは限らないからだ。
そういう意味で、公正取引委員会の提言通りに向かうことは、国民にとっても決して良いことではない。そもそも第1種社会福祉事業を含んだ介護保険サービスについて、経済市場原理に委ねるべしという論理は危険極まりない論理である。なぜならそれは弱肉強食の原理だからである。
このことに気づかない人が多いのはなぜだろうか。
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基本的に介護サービスを含め、福祉サービスは安易な民間参入や市場原理を導入する事は非常に危険です。
結果的に市民である我々の首を絞める結果になる。
要するに、介護福祉業界も格差が生まれると言う事である。
何のために税金を払っているのか?!よくよく考える必要があると思いますね。
自分達が負担している公的サービスこそが、最高の顧客サービスであるべきです。