9/5に公正取引委員会が介護分野の規制改革に関する報告書をまとめ、その中で介護保険と保険外サービスを組み合わせた「混合介護」の弾力化の提言を行っている。
具体的には、保険給付サービスとしての訪問介護の際に、サービス対象ではない同居家族の食事の支度や洗濯などを、追加料金を徴収した上で一体的に提供することを可能にするなどの内容だ。
こうした規制を見直せば事業者の効率や採算が改善し、介護職員の賃金増につながり、かつ利用者の負担する料金が下がる効果も期待できるとされている。
果たしてそうだろうか?僕はこのことによって一時的には、「利用者の負担する料金が下がる」効果はあるのだろうと思うが、事業者の採算性アップや介護職員の賃金アップについては疑問符をつけている。
そもそもこの規制緩和の本当の意味は、給付はずしが行われ、保険給付サービスが受けられない人が増えるので、それらの人々に対して、保険外のサービス利用を促進するために、保険外サービス事業者を増やしたいという国の思惑があることを見逃してはならない。
介護事業者は、ここにあらたな収益事業展開ができると見ている向きがあるが、確かに今後は、保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する、「混合介護」への参入が不可欠になるものの、それは現在の収益事業に上乗せされて、あらたな収益事業が生まれるという意味ではないことに注意が必要だ。
混合介護が必要になるという意味は、要介護2までの人に対する保険給付サービスが縮小され、保険収入が減収せざるを得ず、その分の補填として、保険外サービスを含めた多角的な事業展開をしていかないと、介護事業者は生き残っていけないという意味である。
しかし保険外サービスは、法的規制の及ばないところが多いのだから、指定事業者のみならず、様々な事業主体がそこに参入してくるという意味でもある。骨太の方針で、社会保障費の自然増分は低く抑えられるとは言っても、毎年5.000億円の自然増は発生するのだから、そこは収益確保の場であることに変わりはなく、民間事業者の参入余地はまだある。
規制委員会の提言は、その際に、指定事業者であれば、指定事業と一体的な保険外サービスの提供が可能になるという意味で、指定事業者にとってのメリットを生み出す効果はあるだろう。
しかし当然のことながら、この部分にメリットを感じるのであれば、訪問介護事業の指定を受けて保険外サービスを一体的に提供して収益を挙げようとする民間事業者は増えることが予測される。
その際に一時的には価格競争が起こって、保険外サービスの価格は低く抑えられる可能性が高い。その中で顧客の争奪戦が始まるのだから、決して事業者の収益率が高まるとは言えず、生き残りをかけた戦いの中で消えていく事業者も多いだろう。
そのような価格競争が行われる中で、従業員の人件費だけが突出して増えることはないと思われ、価格競争の結果、生き残り事業者の寡占状況が生まれた場合は、競合する事業者が存在しない中、介護従事者の働き場所も限られてくるので、賃金は一定水準に収まる可能性が高い。だから公正取引委員会の提言は、すべて実現するとはいえないわけである。
ところで、介護給付費の全体の額は増額するが、それは介護が必要となる人の数は増える中で必然的に増える額より低い額しか給付しないという中での増額なので、必然的に顧客一人当たりの単価は減ると考えざるを得ず、介護事業経営は一つの事業に的を絞ってはならず、多角的に大規模化して、様々な事業の中で顧客を囲い込んで、顧客数を増やしていくことが収益を挙げる構造としては望ましい。
財源不足を理由にした給付抑制により、保険給付サービスを受けられない人が増えたときに、介護サービス事業者の数が極端に減って、数社の寡占状態が生まれることは、価格競争面ではマイナス要素なので、国はそのような状態は望んではいないだろう。
よって現在存在する様々な規制を緩和し、民間事業者の参入を促す政策誘導が行われている。それはある意味、既存事業者にとっては、競争・競合相手が増えるという意味である。
そこでは民間企業が特別養護老人ホームを開設できるよう参入規制の緩和や税制や補助金制度を公平にすることなどにも切り込んでいる。介護給付費が削減されては経営できないといっているなら、民間事業者がいくらでも特養を経営してくれるぞという脅しも盛り込まれているわけである。
介護給付費という公費だけで収益を挙げようとする、「甘い考え方」では、今後の介護事業経営はできないぞという意味を含めた、規制緩和の提言であることを理解すべきだ。
どちらにしても、混合介護を事業経営の切り札にして、勝ち組になろうとするのであれば、保険サービス事業も、保険外サービス事業も、きちんと経営していかなければならないということになる。特に法的規制が及ばず、公定費用もない保険外サービスの中で、価格競争も展開されていくのだから、それは温い保険給付サービスより、かなり厳しい状況において、経営手腕が問われるという意味だ。
よって混合介護が必然であっても、混合介護のサービス展開の結果が、すべての事業者にとって、勝ち組に繋がるわけではなく、混合介護の中で大きな負債を背負って負けていく事業者も増えるという意味だ。
そこを理解しておかねばならない。
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