インターネットを酷使して情報を得ることのできる社会では、最新の情報をリアルタイムで得ることが難しくなくなっている。
そういう意味では、情報を得ることに関する「地域差」は存在しなくなったといってよく、中央官庁の情報も、地方に住む一個人が素早く手に入れることができる時代になったといえるだろう。
しかしそのような時代であっても、手に入れることができるのは、ネット上の文字や数値であって、その文字や数値の周辺に存在している、「空気」までは手に入れることはできない。
それは直接、その場面に存在する誰かが感じるもので、その感じたものを得るためには、人と直接やり取りしないとならない。それが極めて重要であったりする。特養を巡るこのところの変化も、担当者が現場で肌で感じているが、表立ってはいない情報である。
このところ僕は、北海道を本拠にしながら、週末は大阪を中心に、東京・仙台・福岡・岡山等を回りながら、そこで全国各地の介護関係者の方々とお会いしているが、その中に特養の入所担当業務を行っている人がいる場合、直接尋ねることがある。
それは、「利用者確保に困っていませんか?」ということだ。
それはつい最近までありえない質問だった。特養はどこであっても満床であることに加え、数多くの待機者を抱えているのが当たり前であったからだ。しかし「既に存在している空き箱(その1)」でも指摘しているように、特養の「実質待機者」が居なくなり、空きベッドが埋まらないという状況は、一地域・一施設の問題ではなく、全国的な問題へと広がりを見せているのである。
その実態を数値としてではなく、入所担当者の実感として知りたいというのが、僕の質問の意味である。そこでわかることは、特養待機者は地域を問わずに確実に減少しており、利用者の新規確保は、思った以上に困難になっていると感じている相談援助職員が多いということだ。しかもその状況は、この1年〜半年の間に、急激に変化しているといってよいものだ。
それは特養の入所要件が厳格化されて、原則要介護状態区分3以上の人を対象としたルール変更の影響だけではなく、要介護高齢者の自宅以外の場所への「住み替え」の選択肢が多様化し、年金で支払える額であれば住む場所の種類は問わないという人が増え、それに対応して、介護サービスをセットで考えても、特養の費用とそう変わらない額で暮らすことができる居所が増えているという意味である。新設サ高住の空き部屋が埋まらないために、ダンピングするサ高住があることも影響している。
同時にその中には、介護が必要な状態になっても、自分が望む暮らしをしたいと考え、そのためにはお金がかかっても自分の希望が聞き入れられる場所を望んだ結果、特養以外の居所を選択する人もいることを意味している。場合によっては、より暮らしやすい場所を求めて、特養から別の特養への住み替えというケースも見られている。それはまさに待機者がいないから可能になる選択方法ともいえる。
どちらにしても、特養が何もしなくとも利用者確保に困らない時代ではなくなっているのである。そのために入所担当の相談員のルーチンワークに、地域への営業周りが当たり前に考えられるようになっている地域がある。(※ただしこういう業務を相談員に押し付けている法人は、生き残っていけない法人になると思う。これからの法人経営を考えると利用者確保は、事業所単位ではなく、法人単位で行う必要があるからだ。そのことは別の機会に論じよう。)
しかし僕はこのことを否定的に考える必要は無いと思う。少なくとも高齢期の居所の選択肢が広がるということは、国民にとって、地域住民にとって悪いことではない。
勿論、介護施設サービスを主力に、事業経営する法人とって、そのことは重大な問題であり、利用者確保ができなければ即、経営困難に繋がるものだ。そうであるならば、利用者に選択される特養にしていく努力が求められる。良い施設サービスだけ残って、サービス水準の低い施設がなくなることは、むしろ健全といえるのである。
利用者本位という言葉が建前でしかなく、サービスの品質意識も無く、顧客に対するホスピタリティなどどこ吹く風で、職員対応は個人の資質任せで、顧客に対してタメ口で接することが当たり前という特養は、つぶれて当然である。なくなってよい施設である。
サービスの質の関係なく、何をしても、何をしなくても一緒で、開設さえできれば利用者確保に困らないという状況の方がどうかしているのである。利用者の生活の質というものに対する意識の無い特養は、暮らしの場としての存在意義が無いのである。暮らしの場であれば、看取り介護ができないなんていっている特養も、そろそろ業界から退場してもらっても良いのである。
よって今後の特養経営には、本当の意味でのサービスの品質管理が不可欠になる。
ホームページやパンフレットで、いくら美辞麗句を並べて宣伝しても、実質が伴わない特養は消滅していくだろう。
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特養もサービスを向上させ、選ばれる施設にならなければ、先はどうなるかわからないと感じています。
利用者確保も人材確保も大変な時代になりましたが、よく考えれば、とてもあたりまえのことなんですよね。
選ばれる施設になるために努力を惜しまない。頭フル回転で、考えなきゃと思います。