居宅サービスと、施設サービスを比較して考えることに何か意味があるのだろうか。そもそもその区分自体に、どのような意味があるだろう。

介護保険法は、在宅重視の法理念を掲げており、施設サービスより居宅サービスを 優先利用する文言が連ねられてはいるが、それは居宅サービスの方がお金がかからないという思い込みによる財源論が主たる理由であって、それ以外の理由はすべて後づけの理屈に過ぎない。そんなものにこだわる必要も無い。

法文は、神が創っているわけではなく、官僚の作文にしか過ぎないという一面を忘れないでほしい。

構築が急がれている地域包括ケアシステムにしても、高齢者が「住み慣れた地域」で暮らし続けるという目的が掲げられているが、それは自宅で暮らしつづけることであるとは、どこのどの文章にも書かれていない。そこで使われている言葉は、「住まい」であり、暮らしの場は必ずしも自宅を意味するものではない。

見失わないでほしい。高齢期には様々な変化が生ずるということを。

それは身体的変化であったり、精神的変化であったりするが、そうした場合、従前の住まいでは対応しきれない生活課題の出現も想定でき、健康な状態であれば住み心地が良いはずの自宅が、バリアになることもあるかもしれない。そしてそのバリアを乗り越えることが困難な場合に、住いを替えるという選択肢があって当然である。

このときに、在宅重視・居宅サービス優先の視点からしかものを考えないとしたら、真の個別ニーズを見失って、必要な方向性が見えなくなる恐れがある。

そもそも居宅サービスと施設サービスの区分は、法制度上の区分でしかないと言えもするわけで、それが直接個人の暮らしぶりに関係あるとは言い切れない。

例えば、居所であるはずの特定施設やグループホームが、介護保険制度上は「居宅サービス」に区分されていることは、設置主体の多様性を確保するための便宜にしか過ぎず(※施設サービスに区分してしまえば、民間営利法人や非営利法人であるNPOでさえも、原則設置主体となれない)、暮らしの実態がそれによって左右されるということにはならない。

施設関係者の皆様に言っておきたいことは、在宅重視の制度であるからといって、施設サービスが軽視されて良いわけではないし、それが居宅サービスの下に置かれているわけでもないということだ。自らの置かれた場所に誇りを持って、そこで良いサービスを創ることだけに専心していただきたい。

ところで、曇りの無い目で、一人ひとりの高齢者の住まう場所の選択に向かい合うとしたら、そのときに見えてくるものがある。

それはある特定の人にとって、必ずしも自宅で暮らし続けることがベストの選択というわけではないが、同時にそうした人がいた場合に、施設等に入所するだけで、その人のニーズが満たされて、暮らしぶりが良くなるわけでもないということだ。

曇りの無い目で見たときには、居宅サービスと施設サービスの区分にも意味を感じなくなるのと同時に、特養とか老健とか、グループホームとか特定施設とか、サービス付き高齢者向け住宅とか自宅とかの種別区分にも、ほとんど意味が無いことに気づくだろう。

サービス自体の目的や機能、費用負担体系に違いがあったとしても、対人援助サービスとして、人に関わるというミクロの部分では、そのことの違いは存在しないことに気が付くだろう。

「入所したくなかったけれど、入ってみればもうここから出たくない」という特養も存在する。しかしインフォーマルな支援者が誰もいない一人暮らしの自宅以上に、「孤独」を感じる特養もある。

自宅を離れた初めて安寧の場所を得る人がいる反面、住環境が整った豪華な設備の中で、尊厳をズタズタに奪われる高齢者が存在する。

どちらにすべきかは、論ずるまでもないが、そこで求められる姿勢については、介護ワークの、「「顧客に選ばれる」時代となった介護業界。その時活躍できる介護士は?」に書かせていただいたので参照願いたい。

私たちの仕事とは、誰かと勝負して誰かに勝つことが目的ではない。ただ粛々と、私たちのいる場所で、そのサービスを遣う人が幸福になる方法論を探し、それを積み重ねることだけが、私たちの仕事の本質である。

そこで手に入れたエビデンスは秘伝にするのではなく、固有にするのでもなく、すべての人と共有し、分け隔てなく人々が幸せになる必要がある。

対人援助や、介護サービスという職業で、誰かを蹴落として勝負に勝つなんてことを目的化してほしくない。

成長するために学ぶ課程で議論し、論争するのはよいし、切磋琢磨してサービスの向上を競い合うのはよいが、サービス競争に負けた人を見下ろす人ではなく、勝ちを得た人のところまで、負けた人々が昇ってくるように仕向ける人あってほしい。

皆様へのお礼。
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