以前にもここで紹介した、「高齢者福祉施設におけるサービスマナー実践テキスト」(東京都社会福祉協議会)は、僕がかねてから主張している、「介護サービスの割れ窓理論」とまったく同じようなことが書かれている。

この本の編集者は、岩本操・武蔵野大学人間科学部准教授(前で紹介した記事の写真にも写っている方)であるが、僕との違いは、岩本淳教授のほうが、文章に品があるということだ。

しかしその指摘しているところは、まさにストライクゾーンど真ん中をついていて、非常に説得力がある。

例えば「親しみやすさと、馴れ合いの混同」という点では、次のように指摘している。

---------------------------------------------------------------------
高齢者施設におけるサービスマナー実践テキスト(東京都社会福祉協議会)より引用

老人ホーム等の生活施設では、利用者と職員との関係が長期化し、家族のようなかかわりが見受けられます。このこと自体が悪いわけではありませんが、それが「馴れ合い」関係になっていることには注意が必要です。その典型が「言葉遣いの乱れ」でしょう。若い職員が、自分の祖父母くらい年長の利用者に対して「~だよ」「何をやっているの」という場面も少なくありません。こうした言葉遣いを「親しみやすさ」の表れだという話も聞きますが、丁寧な言葉遣いや敬語を使っても「親しみやすさ」は十分表現できるはずですから、利用者の心地よさよりも職員が慣れた楽なやり方を続けているだけかもしれません。マナーは自分の損得ではなく、相手の得にあるわけですから、これはサービスマナーの実践とはいえません。

こうした「馴れ合い」関係について、利用者も安心して満足しているという反論もありますが、これは大いに疑問です。人間は小さな子供からお年寄りまで、環境に適応しようとする力があります。母親から引き離された子供は、最初は母親を求めて泣き叫びますが、其れが長引くと、母親を求めることを「あきらめる」ことによって、その状況に適応しようとします。また精神病院に何年、何十年も入院してきた人は、入院当初は退院を繰り返し主張しますが、次第に何も言わなくなり、退院を「あきらめて」病院に適応していることが多くあります。忘れてならないのは、そうした人々も始めから適応することを望んでいるわけではないということです。人は誰もが、環境の良し悪しにかかわらず、どうしたらここで自分が生き延びていけるか、環境に応じた構えを作っていくわけです。高齢者施設に入所した利用者も、そこで安定して生きていくために環境や職員の対応を受け入れ、それに合わせていると考えたほうが自然です。「馴れ合い」関係は、利用者が本来望んでいたものではなく、じつは利用者の努力の結果なのです。  
------------------------------------------------------------------------
 
介護施設を利用している高齢者は、若い人のため口に親しみを感じているのではなく、その言葉を受け入れないと、そこでは生きていけないために適応させられているというわけであり、そこでは「飼いならされている」というイメージが浮かんでくる。

こうした状態を異常と思えないほうがどうかしている。

されに岩本順教授は、【サービスマナーの軽視がもたらす人権侵害】にも筆を及ばせている。

-------------------------------------------------------------------------
高齢者施設におけるサービスマナー実践テキスト(東京都社会福祉協議会)より引用

サービスマナーの取り組みは労力がかかる一方、職員が対応をしたところで利用者に良好な変化が見られず、徒労感が募るという話を聞きます。利用者の介護度は高く、重い認知症を抱えている人が多くなってきるので、職員が一生懸命コミュニケーション技術を身につけても、その言葉の変化に利用者が気づき反応してくれることが難しいのは事実です。このため職員の中には「何を言っても通じない」「何をやっても同じではないか」という思いが生ずることも稀ではありません。しかし、こうした考え方の根底には、深刻な人権問題がかかわっていることに警戒しなければなりません。

社会福祉実践の価値前提として「人間尊重」の視点があります。「人間尊重」とは、人は「何を持っている」とか「何ができる」ということにかかわらず、「ただ人として存在していることに価値がある」という人間観です。福祉施設の理念に掲げられている「人としての尊厳」も、この人間観によって支えられています。もし、重い認知症をもつ利用者や意識障害のある人に対して、「どうせ分からないから」とサービスマナーを軽んじる言動があるとしたら、それは利用者を「価値あるもの」と「そうでないもの」とに選別していることになるのです。その感覚はとても怖いもので、常に自戒し社会福祉の価値前提を確認していないと、知らず知らずのうちに利用者の人権を侵害し、虐待につながる恐れもあるのです。

サービスマナーは利用者を変えるために行うものではありません。社会福祉や社会福祉の理念に基づき、利用者の状態や反応にかかわらず「あなたを大切に思っています」というまなざしを持って向き合うことです。福祉施設でサービスマナーを考えるときに、常にこの視点に立ち戻ることが大切です。
--------------------------------------------------------------------------------
なるほど。社会福祉援助に関係する僕たちが、決して忘れてはならない「人間尊重」の視点こそ、サービスマナーにつながっているのだと、あらためて考えさせられた。その為の「介護サービスの割れ窓理論」であり、介護事業者の「ホスピタリティ」は、単に顧客確保のためだけではなく、僕たちのアイデンティティともいうべき、福祉観に深くかかわるものだ、ということをあらためて感じた。

そうした視点を持つこともなしに、安かろう悪かろうサービスのままでよいし、言葉遣いなど大きな問題ではなく、タメ口も時には許されると考える輩には、僕たちのステージから一日も早く退場してもらわねばならないという気持ちが、一段と強くさせられた。

このような考え方を、もっと広めていかねばならないと、あらためて覚悟を決めた。・・・誰かの赤い花になるために。

※もう一つのブログ「masaの血と骨と肉」、毎朝就業前に更新しています。お暇なときに覗きに来て下さい。※グルメブログランキングの文字を「プチ」っと押していただければありがたいです。

あかい花から介護・福祉情報掲示板(表板)に入ってください。

介護の詩・明日へつなぐ言葉」送料無料のインターネットでのお申し込みはこちらからお願いします。

人を語らずして介護を語るな 全3シリーズ」の楽天ブックスからの購入はこちらから。(送料無料です。