今月7日に行われた会議の中で、厚労省は全国の自治体職員に向けて、介護施設の「抜き打ちの実地指導」を行うよう指示した。

これはSアミーユ川崎幸町で起きた、利用者連続転落殺人事件を受けての措置で、虐待防止のための指導の在り方を考える中で決まったものである。これによって今後の実地指導は、「虐待の疑いがある場合は、抜き打ちで実施」することとし、厚労省は近く通知を見直す方針とのことだ。

この報道に触れて感じたことは、「これって実地指導なの?」ということだ。「虐待の疑いがある場合は〜」という条件が付いていることを考えると、これって実質的には、「監査」ではないのかという疑問がまず生じた。

そうであるなら、現在の対応とさほど変わらないのではないかと思う。だって今だって、「監査」は、不適切運営が疑われるとして抜き打ちでも行っているではないか。どこが違うのだろうか・・・。
(※介護保険制度上の実地指導とは不適切運営を行っている事業所に処分を行うことを前提にした者ではなく、適正運営を行っているかどうかを確認するためのもので、運営指導が必要かどうかを判断し実施するもので、原則として施設サービスが2年に1度、居宅サービスは指定更新の期間内に1度実施するものである。)

どちらにしても、適切な運営を行っている施設にとっては何ほどのことはないし、どうぞいつでも抜き打ちで運営確認にきてくださいよ、というようなものだろう。

ところでこの措置によって、虐待は本当に防止できるだろうか。その抑止力は期待できるだろうか。

そもそも行政指導は、警察の役割りではなく、事前に不適切運営を防ぐのが一番の目的である。そうであれば「虐待の疑いがある場合は、抜き打ちで実施」する目的が、単に虐待事実を明らかにして、処分を行うことであっては意味がないことになる。

そこには抑止力となる効果が期待されなければならない。

しかし書面審査が中心となる行政指導や監査で、どれだけの虐待行為が明らかになるだろうか。アミーユ事件でも、3人の転落死については、行政は全く無力であったではないか。(行政処分の対象になったのは、利用者家族の隠し撮りビデオ映像に映っていた行為と、殺人犯がそれ以前に警察の御縄になっていた窃盗事件である。)

行政職員の確認作業など、隠し撮りビデオほどの効果さえないという意味である。しかもいくら抜き打ちだからと言って、行政職員がそこに来たという瞬間に、職員は構えて対応するだろうから、記録に残る行為以外を明らかにすることは難しい。つまり行政指導をいくら強化して、そのために方法を変えたとしても、根本原因に手を入れない限り、感覚を麻痺させた人間による虐待はなくならないということだ。

Sアミーユ川崎幸町で隠し撮りされたビデオには、事件の犯人以外の複数の職員が、利用者を罵倒しながら乱暴に取り扱う姿が映されていた。その姿は虐待そのものであるが、こうした日常的な暴言は、施設長はじめ管理職の耳に届いていなかったのだろうか。

そもそもそうした職員の利用者に対する日常会話における言葉遣いはどうだったのだろう。おそらくそれは丁寧語とは程遠い、乱れた言葉であったと想像できる。施設の管理者が、職員の言葉遣いに鈍感であれば、乱れた言葉遣いがエスカレートし、乱れた心を生み、虐待に発展するというケースは少なくはない。殺人という行為は論外だが、この施設では職員の暴言が常態化し、不適切な対応につながり、それが次第にエスカレートしていったことが容易に想像できる。

このような状況改善を、後追いの行政処分に期待しても始まらないのである。

行為がエスカレートする以前に、その行為につながる感覚麻痺をなくすような方策をとらねば、行政対応はただのアリバイ作りで終わるだろう。

こうした問題を解決するためにも、「介護サービスの割れ窓理論」を浸透させてほしいと思うのである。

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