国費を使った補助事業として、「介護ロボット等導入支援特別事業」という事業が行われている。

この事業は、国の予算を使った市町村事業として、介護事業者等が指定の介護ロボットを購入する際に、市町村を通して補助金を受けることができる事業であるが、情報が少ない状態で、短い申請期間で申込みが締め切られたことについて、様々な意見が表の掲示板に寄せられている。

その情報からは、導入に積極的な市町村と、そうではない市町村の格差が大きいことが読み取れる。

介護事業者の中には、この機会に申請を挙げて、介護ロボットを導入したいと考えている関係者もおられる。そのことに別段文句をつけるつもりはないし、この機会に、「介護ロボットを用いた新しい介護」という形の、新たなエビデンスが創られるのであれば、それは喜ばしいことだと思う。・・・とはいっても、そのことにあまり期待はできないというのが本音ではある。

そもそも介護ロボットとは何ぞや?その答えは一つではない。介護ロボットという言葉の定義付けはまだされておらず、法的なくくりがあるわけでもないからである。

介護ロボットと、介護支援ロボットは違うものだという人もいれば、いや、そうではなく自立支援ロボットや見守りロボットを含めた、大きなくくりが介護ロボットであるという人もいる。しかしそのどちらが正しいという判定の根拠さえ存在しない。

ただし国の補助事業についていえば、それは移乗・入浴・排泄など介護業務の支援をする介護支援ロボットと、歩行・リハビリ・食事・読書など介護される側から見た自立支援ロボット等をすべて含めて、「介護ロボット」としているものだ。

しかし気を付けてほしいことがある。それは国がこの事業を進める理由は、「介護の人材難」を補うためではないということだ。厚労省だけではなく、経済産業省も、介護ロボットの普及に力を入れていることでも分かるように、国が介護ロボットを普及推進しようとしている最大の理由は、「経済対策」である。

介護ロボットの分野では、世界に先駆けて、日本が先端技術をもって機器を製造していることもあって、製品を世界に輸出できる可能性があり、それは新しい成長産業となり得るものであるとして、国を挙げてその普及に取り組んでいるだけである。

つまり自国の介護現場での機器普及がない限り、諸外国がその機器を購入してくれることにはならないので、国内でその普及を図ることが必須で、それを国外への輸出の実績根拠にしようという思惑があるということである。補助事業はそのためのもので、介護労働の省力化が図れるというエビデンスに基づいた補助事業ではないのである。

一方で介護事業者が、介護ロボットに期待するものは、慢性的な人材不足・人員不足を補う機能であり、介護職員の省力化につながる機器として、それを求めているものである。

介護ロボット製造元の思惑がどこにあるかは別にして、国の普及方針と、介護サービスの場の受け入れ動機には、温度差が存在することを忘れてはならない。ここを無視して良いほど、そのギャップは小さなものだろうか?介護サービスの場を劇的に変えるほどの機器は存在しているだろうか?

少なくとも、人間以上の介護を司るような機材は存在していないというのは、共通認識であろう。そうであっても、人の行為を支援して、介護負担が軽くなれば、それなりの効果は期待できるわけであるが、果たしてそういう結果をもたらしてくれる機器はあるだろうか。

冷静に評価すれば、補助対象となっているもので、介護職員の助けになって、介護業務の省力化につながる機器は存在しないと思える。むしろ操作方法に習熟するための手間、事故防止のための確認作業、機器のメンテナンスなどを考えると、業務負担は増えるものがほとんどである。

かなり早い時期から介護サービスの場に導入されている、「移乗用リフト」の現状を考えていただきたい。あの機器を上手に使いこなしている施設がある反面、リフトを導入したにもかかわらず、いつの間にか使われなくなって、それが倉庫の奥深くに眠っている施設もある。

そもそも介護サービスの場で、移乗用リフトが必要不可欠であるという認識は存在していない。これだけ長い期間、研究改造が進められている移乗用リフトですら、そうした実態なのである。果たして現在普及が進められている新機材を、どれだけの事業者が使いこなせるだろうか・・・。

移乗用リフトに話を戻すと、その機材を使用しての事故も発生している。それらは機材そのものの欠陥ではなく、ヒューマンエラーと呼ばれる、機材を使う側の問題ではあるが、同時にそのことは、ヒューマンエラーは皆無にできないという事実を示しており、機材を使うことによる介護事故は増えるという意味にもなる。

介護ロボットによる利便性が高まるとしても、その便利さと引き換えに、危険性が増してはどうしようもない。そうしないためには職員への徹底した教育訓練と、日頃の確認作業が不可欠になるが、それは介護労働の負担増につながらないかという検証作業が十分ではない現実がある。

電動ベッドを考えていただきたい。ギャッジアップさせる必要のある場合、電動ベッドは手動でギャッジアップすることに比べると、かなり業務負担を軽減してくれることは間違いない。手動でしかギャッジアップする方法がなかった時代を知る人は、その利便性には気が付いているはずだ。

しかも電動ベッド自体は、操作方法も単純で、特別なメンテナンスも必要のない機材であると言える。つまり電動ベッドを操作するということは、極めて単純作業で、ヒューマンエラーが起こりようもないと考えてよい行為である。

にもかかわらず、電動ベッドの操作ミスによる死亡事故が無くなっていない。平成19年から平成26年までのデータでは、介護ベッドによる事故は67件発生していて、そのうち35件が死亡事故となっているが、ここには電動ベッドの操作ミスによる手足の骨折や、首を柵に挟んだ状態での操作による死亡事故が含まれている。

単純操作の電動ベッドでさえこうした状況なのである。補助対象になっている機器については、それよりもっと操作方法が難しいものや、安全確認を要するものも多い。本当に介護サービスの場で職員がそれを使いこなせるだろうか。仮に使いこなしたとしても、それは業務の省力化につながるだろうか。

そんなことを考えると、国の補助事業があるから、この機会にとりあえず機器導入を図ろうというような、安直な考えを持たない方が良いと言う結論に達せざるを得ない。

介護ロボットを導入しようとしている場所で、介護職員がそのことを求めているのか、導入後の操作習熟のシステムや、ヒューマンエラーを防ぐ手立てを持っているのかなど、総合的な判断が不可欠である。

そうしないと数ケ月後に、倉庫の奥で眠る邪魔な置物を増やす結果にしかならないだろう。それだけの結果ならまだましだが、安直な介護ロボット導入で、介護サービス利用者が危険にさらされるような状態が生まれては困るのである。

それだけは絶対にないように対策したうえで、介護ロボットの導入を進めていただきたい。

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