言葉を崩すことが、利用者に親しみを感じてもらう方法だと思い込んでいる人によって、利用者は自分より若い人に、ため口で話しかけられる。そのことに対して、舌打ちしたい思いを持っている人は多いだろうし、心の奥底で嘆き悲しんでいる人も多いのではないだろうか。

今後団塊の世代の人々の介護サービス利用が増えていくが、それらの世代の人は、企業戦士として高度経済成長期を支えてきた人たちや、そうした夫を支えてきた妻たちである。そういう人たちは、我々の世代より上下関係に厳しく、サービス業の言葉遣いに敏感な世代である。そうであるがゆえに、サービスを提供する側の職員が、言葉を崩すことを不快であると考える人は多く、同時に崩した言葉に傷つく人も多いはずである。

そうしないためには、誰もが不快にならない丁寧な言葉遣いが求められるのである。

親しみやすさという言葉でカモフラージュされた言葉は、タメ口でしかない。それは無礼な馴れ馴れしい言葉遣いという域を出ない。そういう言葉を、仕事の中で使うことの恥ずかしさに気付くべきだ。プロとして丁寧な言葉を使いこなして、親しみを持ってもらうべきである。それができない素人でどうする。

そもそも保健・医療・福祉・介護以外のどの職業で、顧客に対してタメ口が許される職業があるだろうか。そんな職業は他には存在しない。我々は、言葉遣いに気を使わない職業の異常さにもっと気が付かなければならない。

医療機関で看護師が患者に話しかける際に、馴れ馴れしく無礼なタメ口を使った高飛車な姿を思い浮かべ、そのことを反面教師にして、あのような醜い対応を、介護サービスを提供する場で行ってはならないと考えるべきである。

接客意識のない対人援助サービスは、目の前の人々を人と思わなくなる危険性を内包せざるを得ない。乱れた言葉を放置する対人援助サービスは、人の心を傷つけることに鈍感にならざるを得ない。

そのことに危機感を持ってほしい。なぜならそこで傷つけられるのは、近い将来のあなた自身であるのかもしれないし、あなたの愛する誰かかもしれないのである。

そうであるがゆえに、我々が対人援助のプロとして主力になっている今この時代に、対人援助サービスが持ち続けてきた負の遺産を捨て去り、我々の時代に100年先の対人援助のスタンダードともなり得るサービスの質を創っていかねばならない。

その根幹をなすものが、「介護サービスの割れ窓理論」である。言葉の乱れを放置せず、丁寧語をスタンダードとすることである。丁寧語を使いこなすことができるプロによって支える介護を創ることである。

介護サービスの場を、特殊な閉ざされた環境にしてはならない。それは我々の価値観によってなんでもありの治外法権空間を作ることと同じである。しかし年上の顧客に、タメ口で対応することが許される職場とは、「特殊な閉ざされた空間」そのものである。

そうしないために、我々は日常的に、「それって普通?」の問いかけを繰り返すべきであり、介護サービスの割れ窓である、言葉遣いに気を使うべきなのである。

人は弱い存在だ。長きものにまかれやすく、低き場所に流れやすい存在だ。そういう存在であることを意識しながら自らの心を見つめていかないと、人は人の不幸を笑って見てしまう存在になっていく。しかしその姿は実に醜悪であり、自分だけがその醜悪さに気づかないことになる。

介護という職業が、本当の意味で利用者の暮らしを護る職業であり続けるためには、顧客意識に基づく正しい言葉遣いや、節度ある態度で対応する基本姿勢を失わず、感覚麻痺に陥らない検証作業を繰り返す必要がある。この基盤がない場所で、どのような教育システムを作ったとしても、それはガラスの城でしかない。

コミュニケーションで成り立つ職業であるからこそ、言葉を大切にする「介護サービスの割れ窓理論」を職員教育の柱にして、職場全体の意識改革が求められるのである。

その意識の上に、正しい介護技術によるサービス提供を積み上げることでしか、人の暮らしを護ることはできないのである。

介護施設や介護サービス事業所の管理者には、言葉を正すことがリスクマネジメントの基本であるという理解が必要である。そういう意味からも、僕が提唱する「介護サービスの割れ窓理論」が介護サービスの場に深く浸透することを願ってやまない。
(※介護サービスの割れ窓理論について)
割れ窓理論とは、もともと犯罪心理学の中で唱えられている理論で、割れた窓を放置しておくと、割られる窓が増え建物全体が荒廃していき、やがてそうした建物が地域に増えることで、地域全体が荒廃していくという理論で、割られた窓の小さなひび割れを放置せず、それをすぐに補修することで、そうした荒廃を防ごうという理論だ。その理論を介護サービスに当てはめたとき、介護サービスの割れ窓は、職員が利用者に対して日常的に使う言葉であると考えるものである。

介護施設において職員が利用者に接する際にも、尊厳を護る最低限のマナーが求められ、それは顧客対応としてふさわしい態度を守ることでしか実現しない。職員が利用者に、馴れ馴れしい言葉で接することを放置することで、心のゆるみが心の乱れに繋がり、世間の非常識が介護サービスの常識であるかのような感覚麻痺が生まれ、やがてそのことが虐待行為につながる危険性がある。このことを防ぐために、態度が荒れるきっかけになる小さなほころびは、日常の言葉の乱れであると考え、利用者に対して丁寧語で対応することを基本として、乱れた言葉遣いは常に修正して対応しようとするのが、僕が提唱する「介護サービスの割れ窓理論」である。

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