今年度に入って、6月から当施設の給食部門は外部委託となった。
直営をやめた一番の理由は、介護報酬の大幅な減額に対応して、将来的に経営危機に陥らないようにするための経費節減のためである。
外部委託に際して、1名の栄養士とすべての調理員は、委託業者に「転籍」という形で雇用していただくことになった。(管理栄養士は、当施設の職員として別に配置されている。)
しかしその際の条件は、委託前までの待遇を下げないで、給与も下がらないこととしたので、人件費面での経費節減にはならない。(その分が委託費として請求されるので。)
経費節減の主たるものは、食材料費である。しかしそれも利用者に提供する食事サービスの質を落とすことなく節減するという範疇のものであり、給食専門業者の食材調達システムの中で、コストが下がる部分である。
それでも年間を通じると、数百万円の経費削減に繋がっている。
しかしこの際に心配したことは、本当に食事サービスの質が落ちないかということである。そこで業者委託以後の、「給食会議」(月1回開催)には、委託先の勤務となった栄養士や調理員だけではなく、給食業者の担当者にも参加していただき、職員や利用者の意見などを聴いていただきながら、都度改善に努めている。
その結果、今のところ食事サービスの品質が低下したという声はなく、委託に変更したことへの利用者の不満の声は挙がっていない。むしろメニューが豊富になったことと、嚥下食である刻み食・ソフト食・ムース食の充実は、嚥下機能低下のある方にとってはサービスの質向上と捉えられている。
また労務管理面での施設負担がなくなったことは大きなメリットと感じている。当地域に於いては、介護職員のみならず、調理員の募集に対する応募もなかなかない状況で、施設長としていつも頭を悩ませていたし、ある時期は、欠員があるまま調理員の皆さんの頑張りで、何とか調理部門を支えていたという状況が見られた。しかし業者委託することにより、仮に調理員に欠員が生じても、委託業者の中で、すぐに欠員補充の職員を手当てしてくれるので、そのことで頭を悩ませたり、地域を駆け回ることもしなくてよくなり、ずいぶん楽になった。
ただもう一つの心配は、行事食がどうなるかということであった。はたして経費削減する中で、今までと同じ行事食が提供できるのかという課題があったが、委託から半年を経た状況から言えば、都度委託業者との協議によって、通常の給食費の中でできるものを実施して、特段問題なく行事食も提供できている。
そんな中で12月を迎え、「餅つき」の時期になった。毎年午前中に餅をつき、昼ごはんは、つきたてのお餅を食べるという季節行事が、この時期の恒例だ。
過去に書いた記事、「悪平等ここに極まれり。」、「餅つきって何のためにするの?」、「餅をつくということ。」などで紹介しているように、介護施設の中には、「高齢者にとって餅は危険な食材である。」として、一律に餅を食事として提供しない施設がある。滑稽なことに、餅をついて見せているにも関わらず、その餅を「お預け」を食らわしたように、飾るだけで利用者に食べさない施設が存在する。
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。餅は食うためにつくのだ。ついて見せて「お預け」とは、拷問にも近いと思う。
そこには個別ニーズに沿ったケアも、アセスメントも存在しないと言ってよい。世間からみれば「非常識」の世界である。恥を知れと言いたい。
僕は自分が所属する施設を、そのような冷たい箱にしたくはないので、事務職員なども見守りに協力するなど、安全のための対策を徹底したうえで、嚥下機能状態を考慮して、「疑似餅」を食べざるを得ない人をピックアップし、それ以外の人には昼食として、つきたてのお餅を提供している。
業者委託になっても、そのことに変わりはなく、今年も餅つきボランティアの皆さんの協力を得ながら、委託業者とタッグを組んで、お昼ご飯にお餅を提供し、利用者の方々に喜ばれている。
今年もこんなふうにして、餅つきが行われ、昼食としてそのお餅がふるまわれている。お餅を食べていることは、当たり前のことであって、特別なサービスではない。利用者の皆さんの表情を見れば、そのことをやめるという選択はないし、そういう機会を奪っている施設サービスの存在には、あらためて腹が立つ。
僕がこの施設で餅つきに付き合うのは、今年で最後になる。しかし僕が居なくなっても、このことは続けられると思う。それは餅はついて食べるものだという当たり前の生活を守るという意味にしか過ぎず、そんなものは伝統でも何でもない。日本人の習慣である。
餅をついてみせて、お預けを食らわせて、利用者には一切口にさせないということが、いかに非常識であるかという感覚を失わないことが大事だ。その感覚を忘れてしまったときに、ケアは利用者のためのものではなく、施設の都合になってしまうのである。そうした考え方だけは、僕の遺産として残ってほしいと思う。
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