今年度の報酬改定で、施設サービス共通事項として、経口維持加算の算定要件が変わった理由は、経口摂取を続けることができる生活の質を問い直している意味と、安易に経管栄養にしないことで護られる生活の質を大切にするという意味があると考えている。
同時にそれは、経口摂取できなくなった場合の選択について、リビングウイルの視点を強く意識して問い直しているという意味はないのかということを、「施設系サービス(共通)の口腔・栄養に関する報酬は何を示唆しているのか?」で指摘した。
また大幅に削減された介護報酬の中で、特養の看取り介護加算は、最長で4.800単位から6.528単位を算定できるように改善された。
老健のターミナルケア加算の算定単位(最長7.720単位)は据え置かれたが、介護給付費分科会で示された「介護老人保健施設の報酬・基準について (案)」の中で、「老健でのターミナルケア・看取りは、利用者の長期間の在宅療養支援の結果として行われるものであり、このような観点からターミナルケア・看取りを評価。」という考え方が示された。
介護療養型医療施設については、算定単位の高い療養機能強化型Aの算定基準に、「入院患者のうち、ターミナルケアを受けている患者が一定割合以上であること」という要件が付けられたが、これは算定月〜遡って3月の対象者が、患者の1割以上と言う高い数字である。
このように今回の改定では、介護施設における看取り介護・ターミナルケアを推奨するような改定が行われたと言えるわけで、それは社会保障費の抑制という面から考えれば、終末期にかける医療費をいかに抑制して、自然死という形を介護施設で支援する方向に舵が取られているという意味であり、この流れは来年の診療報酬改定、2年半後の介護報酬と診療報酬のダブル改定へもつながっていく流れであると言える。
そんな中で各施設は、その流れをどう考えるのか?
特養関係者の中には、看取り介護の実践は、母体が医療施設などで医療サービスが充実していなければできないのではないかと考えている人がいる。しかし在宅での看取りを考えてほしい。
在宅で亡くなる方は、ここ数年わずかずつではあるが増えてきている。その時に在宅療養支援診療所等の訪問医師が主導し、訪問看護を中心にした支援チームを組み、訪問介護等もそこに組み入れられて在宅での看取り介護・ターミナルケアを実践するわけであるが、最期に息を止める瞬間まで、医師や看護師がそこにいるわけではない。最期を看取っているのは、家族だけという場合がほとんどである。
そうであれば介護の専門知識がある職員が配置されている特養で、看取り介護ができないと考える方がどうかしている。
勿論、終末期にも医療支援は必要であり、安心・安楽の為にもそれは不可欠であるが、それはあくまで緩和医療であり、治療的関わりではない。看取り介護・ターミナルケアとは、まさに「介護」であることを忘れてはならない。
介護保険施設で「看取り介護を行わない理由」の第1位は、「他の利用者がショックを受ける」・「他利用者の精神的支援が困難」というものであるが、これは間違った考え方である。良い介護をして、安心して看取られている状態は他利用者の安心感にも繋がる。それはこの場所で最期まで暮らし続けることができ、最期まで任せることができるという安心感にほかならない。
当施設は、利用者が亡くなった際に、それを隠すことはしていない。利用者が亡くなられた場合、全館放送でそのことを伝え、正面玄関から出棺する際に、職員・利用者がお見送りするようにしている。そこで涙を流す利用者が居ても、そのことは手厚く見送る過程の中でのことで、そのことを引きずって精神的に落ち込むような人はいない。看取り介護の過程もオープンで、協力できる利用者には、看取り対象者の方に関わっていただくことも多い。最期の瞬間まで心をこめたケアを実践していることを肌で感じることができるのが、当施設の実践であり、むしろそれは利用者から選ばれる施設へと繋がっていくだろう。
また施設関係者の中には、職員募集になかなか応募がない人材・人員不足の折、看取り介護・ターミナルケアを行うことは、職員の精神的・身体的負担を増して、職員不足に拍車がかかるのではないかと心配する向きもある。
しかしそれも違うと指摘しておきたい。当施設の実践の結果を根拠として言えることは、適切な看取りを行い、利用者が安らかに旅立つとき、そこで生まれる様々なエピソードが職員を成長させ、職員に感動を与える。そして家族に喜んでいただけることで職員のモチベーションアップにつながり、離職する職員が減るという結果に結びつく。それは職員の定着率が高まることにほかならない。
看取り介護加算を算定しても、経営に影響を及ぼすような収益上のメリットはさほど見込まれない。加算を算定しても、看取り介護には職員の超過勤務や、夜間呼び出しなどに伴う人件費支出の増加が伴うからである。
しかし最期まで安心と安楽の暮らしを送ることができる終生施設であるということが、選ばれる居所としての大きな要素となり、職員の定着率を高めるのである。
介護保険施設はいつも満床、いつも待機者確保に困らないという状況ではない地域が出現し、それは全国的な傾向へと拡大しつつある。そのような中で、利用者確保と人材(職員)確保をセットで考えなければならない時代になりつつあるが、看取り介護・ターミナルケアを適切に実践できる施設には、この課題をクリアできる可能性が生まれるのである。
このように看取り介護とは、決して特別なケアではなく、日常介護の延長線上にあるものであり、それは死の援助ではなく、人生の最終ステージを「生きる」ことをいかに支えるかが問われるものである。そうであれば施設サービスとして、実践をためらう何ものもないのである。
そんな看取り介護の実践方法と考え方を伝えるセミナーを、全国6ケ所で実施する。日程と会場は以下の通りである。
1/31・大阪 (田村駒ビル)
2/14・札幌 (札幌時計台ビル)
2/27・仙台 (ショーケー本館ビル)
3/26・名古屋(日総研ビル)
3/27・東京 (廣瀬お茶の水ビル・日総研研修室)
5/29・福岡 (第7岡部ビル・日総研研修室)
※日総研支社のある岡山県ではなぜか開催予定がない。岡山県にも参加希望者がいたのに残念ではあるが、きっと担当者が僕を嫌いなんだろう。お許しいただきたい。
詳細と申し込みは、PDCAサイクル構築による命のバトンリレー・介護施設で「生きる」を支える看取り介護の実践をクリックしてご覧いただきたい。
時間はいずれも昼休み1時間を挟んで10時〜16時(5時間)、「日総研 看取り介護の実践」 で検索してもヒットする。
なお今週末の土曜日にも、4時間の看取り介護研修を、青森県八戸市で行う予定である。「看取り介護から考える、ケアの基本姿勢〜傍らにいることが許される者になるために〜」は、すでに予定定員には達しているが、希望者はまだ受け付けが可能と思えるので、問い合わせていただきたい。
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