10/2付け北海道新聞の朝刊で、地方の特養の空きベッド問題が特集記事となっているが、そこで紹介されている特養は、現在100人定員に対して、95人の利用者しか入所していないそうである。
その特養には待機者が20人いると言うが、「念のために申し込んでいるだけ」という理由で、待機者がいるのに定員割れしているという矛盾を説明している。
僕の施設で5名もの空きベッドが生じているという状況が生まれたらと想像すると、背筋が寒くなる。月にして150万円弱、年間でみれば1.800万円近い減収となるからである。
しかし北海道新聞の特集記事からは、当該施設の経営に対する危機感は伝わってこない。むしろ記事の中には、「重度の入所者が多く、介護職員も不足しているから、これ以上の受け入れは難しい」という施設長のコメントが掲載されている。つまりこの施設は、満床にしようという営業努力はしていないと思われる節があるのだ。
これって有りか?「重度の入所者が多い」というのは、「これ以上の受け入れは難しい」という理由にはならない。もともと特養は、要介護度が高い利用者も受け入れ対象としている施設であり、ましてや4月以降は、原則要介護3以上の要介護者を入所対象としているのだから、重度の人が多くなるのは当然で、そうであっても指定を受ける際に定めた定員までは利用者を受け入れなければならないし、そうしないのであれば定員の見直しを行わねばならない。
ただし、「介護職員も不足しているから」という理由については、考慮に入れて考えねばならない余地がある。
介護の人材不足が叫ばれる今日、職員募集に応募がないという状況は、日常茶飯事で珍しくなく、必要な配置人員を確保できないために、やむを得ず定員に満たない数の利用者しか受け入れられないというのは、サービス提供拒否の「正当な理由」に当たるからである。
しかしもしこの特養が、100人と定められた定員に対する3:1以上の看護・介護職員配置ができていて、それでもなおかつ定員に満たない状態であるにもかかわらず、「これ以上の受け入れは難しい」と発言しているとしたら大問題である。待機者に入所意思があっても、受け入れ拒否する危険性が生まれるからである。そうした発言を新聞という公器に載せることによって、どんな影響があるかをもっと深く考えねばならない。
(※職員配置数は、本来は定員に対してではなく、前年度の平均利用者数に対するものだが、本記事の趣旨に沿って、ここではあえて定員との関係を論じている。)
新聞の特集記事を読んで、その点が気になったところである。
どちらにしても、5%の定員割れが常態化している状態で、「これ以上の受け入れは難しい」と言いながら運営できている特養はうらやましい限りである。よほど資金豊富な法人なのかと思ってしまう。それとも職員配置ができないために、人件費支出が低い水準であることが、そうした運営状況を可能としているのだろうか。後者だとしたら気の毒ではある。
実はそうした気の毒な施設が、今全国で生まれているというのが実情である。
僕は新設施設の職員研修講師として、全国各地の施設からご招待を受ける機会も多いが、志を高く持って運営しているそうした施設の中にも、職員募集に応募がないために、やむを得ず一部のユニットをオープンできないという話を聞かされたりする。これは特定地域に限った事情ではなく、全国いろいろな地域から聞こえてくる問題である。
北海道も事情は同じで、待機者が多いとされている札幌市でも、定員の8割しか入所者がいない特養があり、その理由は、定員いっぱい受け入れた場合に、職員配置数が足りないほど、募集に応募がなく、職員採用ができていないという理由である。ここでは、実際にすぐに入所したいという待機者が存在するのに、定員に満たない利用者しか受け入れることができないという矛盾が存在するのである。
9/25に書いた、「首相の特養整備方針を、社会保障政策と勘違いしてはならない」という記事の中で僕は、『整備費用として建設補助金を優遇して特養が建てられても、ケアする職員がいないために、利用者受け入れができないという、「空箱」を全国に建設するという結果にしかならないのではないか。』と問題提起したが、人員不足により、施設主体で作られた「空き箱」は、現在すでにたくさん存在しているのである。
その中で、人材確保策のないまま、「新三本の矢」かなにかは知らないが、経済政策として特養を整備しても、それは「介護離職」を減らす効果にはつながらないし、いたずらに全国に空き箱を創りだすという、国費の無駄につながるだけだろうと思う。
そんな状況を受けてか、厚労省は、「潜在介護福祉士」を掘り起こすために、登録制度を導入すると発表した。このことは人材確保の一助になるのだろうか。そのことは後日改めて論じてみたい。
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という話は、職業選択の自由を侵すものではないかと危惧しています。
結婚して男性介護職員が、このままでは食べていけないと寿退社するのは珍しい話ではなくなっていますが、いきなり国から『あなたは介護職員として登録しているので、どこそこの施設で介護職員として働きなさい』なんて、斡旋されても大きなお世話でしょう。
タコ部屋(強制労働)でも、国ぐるみでしようというのでしょうか?