昨日このブログで報告した、「居宅介護支援費に利用者自己負担を導入することの是非についてのアンケート結果報告」について、そこに寄せられたコメントについて、いくつか感想を述べたい。

自己負担を導入することに「賛成」の意見に中に、「そもそも居宅介護支援費だけが自己負担がないのがおかしい」という意見が複数あった。

しかしこの意見は制度設計の根幹を理解していないように思えてならない。

居宅介護支援費に自己負担がない理由は、国は次のように説明している。

「利用者個々の解決すべき課題、その心身の状況や置かれている環境等に応じて保健・医療・福祉にわたる指定居宅サービス等が、多様なサービス提供主体により総合的かつ効率的に提供されるよう、居宅介護支援を保険給付の対象として位置づけたものであり、その重要性に鑑みたものである。」

この説明がわかりにくいと思うので、僕の言葉で、できるだけわかりやすく説明してみたい。

介護保険制度は自立支援のための制度だから、サービス利用に先立って、生活課題を把握したうえで、その解決につながる目標を設定するという形で、具体的な計画に基づいてサービス利用することが大事になるため、居宅サービス計画をサービス提供の前提にはしないものの、現物l給付化(サービス利用時に利用者が1割負担金のみを事業者に支払うことで利用できる仕組み)する条件として、居宅サービス計画作成を義務付けている。(計画がない場合は、償還払いでサービス利用しなければならない。)

この計画については、自分の計画は自分自身で立てられる(セルフプラン)ことにしているものの、専門的見地から自立支援の計画を立案する指定事業所に依頼できる仕組みにすることで、制度の理念に沿ったサービス利用が推進できる。かつ居宅サービス計画作成に関する専門的ケアマネジメントは、サービス利用そのものではないという特性を鑑みると、他のサービスとは差別化されるもので、現物給付の前提としていることもあわせて鑑みて、全額保険給付としているものだ。

このことについては、制度の理念や仕組みと照らして矛盾するものではなく、十分整合性のあるルールと言え、単純に他の居宅サービスが自己負担があるのだから同じにしなければおかしいという理屈にはならない。

また「制度上そもそもセルフプランが推奨されている」というコメントがあったが、そういう事実はない。セルフプランを推奨しているのは一部の民間団体のみであり、国や介護保険制度はそのことを可としているのみで、推奨しているわけではない。

「セルフプランでも可。この場合の給付管理は市町村業務とする」というルールは、居宅介護支援事業所によるプラン作成を、セルフプランができない場合の代替とみているわけではなく、逆に専門職による一連のケアマネジメントによるプラン作成を望まない人への代替手段として、セルフプランという地域行政職の業務負担が増える方法を、やむなく認めているものであり、むしろ推奨されているのは居宅介護支援なのである。

それはこの制度のために、介護支援専門員という新たな資格を創り、居宅介護支援という新たな事業を規定したことで証明されている。

利用者が権利意識を持ち、ケアマネが責任と義務を今以上に問われるから賛成。」という意見にも、僕は首をかしげる。

じゃあ今現在、「自己負担がないから、プランは適当でいいし、自分の意にそわなくてもいいよ」と言ってくれる利用者が何人いるだろう。勿論なかには、「無料だから、あんまり文句を言えないし、ケアマネ交代の希望も出せない」という人もいるのだろうが、それは圧倒的に少数派である。居宅介護支援事業が、無料で行われている事業ではなく、保険給付によって収入を得ており、職業として成り立っていることを多くの利用者が知っているという現状において、自己負担がないから担当者に責任と義務行使を求めずらいと考えている利用者の方が少ない。

1割負担があることで、介護支援専門員が、より責任感を感じて、適切なプランに結びつく」という意見も複数あったが、これもおかしな考え方だと思う。

1割負担がないということは、その仕事に対して、介護サービスを利用していない人も含めた、全ての国民の負担した費用が支払われているという意味である。そうであれば公費と保険料により収入を得ているということに責任を感じざるを得ず、その責任感を持てない人が、1割自己負担ということで、「より強い責任感」などもつことができるだろうか?持ったとしても、よれは一瞬の泡のように消えてなくなる責任感だろう。むしろ1割負担がないことで、指定事業者としての責任感を持てないというスキルの低さを反省すべきであろう。

自己負担があることで、より自立支援に結びつく質の高い居宅サービス提供につながる」という意見への反論は、このブログで繰り返し書いてきたので、あらためて反論するまでもないだろう。むしろ自己負担を導入することによって「御用聞きケアマネ」は増えることは間違いないだろう。(参照:居宅介護支援費(ケアマネジメント)の利用者自己負担導入について

賛成コメントの中で、「なるほど」と思ったのは、「少なくとも自己負担導入により、あまり必要性のない福祉用具のみの利用は減る」という意見である。たしかに必要性の薄い杖一本、車いす1台だけの貸与のために、毎月居宅介護支援費の1割負担が生ずるのは割に合わないと考えて、セルフプランにするか、貸与自体をやめようと考えるケースは増えるだろう。

自己負担賛成論では、「財源には限りがあるから、やむを得ない変更」という意見が、もっともうなづけるように感じた。

一方、多数意見となった「自己負担反対」のコメントは、どれもうなづけるものが多いが、特に『セルフプランと称して、居宅サービス事業所職員が無料でケアプランを代行作成し、その代償にみずから運営する事業所に利用者を誘導するような事が横行するのではないだろうか。』という意見を注目すべきだと感じた。

「系列法人サービスへの誘導」のために無料でセルフプランの作成を手伝う行為は、違法とはならない。

セルフプランは、アセスメントも給付管理もしなくてよいのだから、手伝うと称して、機械的に居宅サービス計画書1〜3を代理作成するだけであり、これには介護支援専門員の資格も必要としないし、適切なニーズを引き出す必要もないので、さほどの知識や技術も必要とせず、誰にでもできる行為であると言える。しかも特定事業所集中減算も適用されない。そもそも形は自己作成=セルフプランだから、行政指導の対象にもならない。

こうした行為を行う事業者は間違いなく増えるだろう。そしてそれは居宅介護支援費への支出を減らす結果となっても、必要のない居宅サービス利用を増大させる結果となり、給付費全体としてみれば増えるだろう。

このことと、自己負担があるがゆえに、利用者の希望を丸呑みしたプランを作成する御用聞きケアマネが増えることを考えると、財源負担をへらすという理屈も通用しない恐れが出てくる。やはり居宅介護支援費の、自己負担導入は問題が大きい。

それにしても、この自己負担問題に寄せられたコメントを読むと、賛成・反対の意見は異なっても、制度全体、ケアマネジメントの質という面からの主張がほとんどで、介護支援専門員の業務負担という部分から、賛否を判断した人が少ないことがわかる。これは介護支援専門員はじめ、多くの関係者が、制度の持続性・ケアマネジメントの質というものを真面目に考えている証拠で、自分の業務負担を念頭に置かずに、介護サービスの在り方を真剣に考えている結果と言えるのかもしれない。

しかし・・・である。それでいいのかと、あえて主張したい。

居宅介護支援費に、利用者負担を導入した際には、確実に指定居宅介護支援事業者に所属する、「介護支援専門員」の業務は増えるということだ。そしてそれに対する報酬は加算されるわけではなく、確実に発生するであろう自己負担金の滞納を考えると、収入は減るということだ。つまり業務負担は増え、給料は増えないどころか下がる可能性があるということだ。そのことに文句はないのだろうか。

会計処理を含めた未収金を処理する人って、居宅介護支援事業所の中では、介護支援専門員しかいないということを考慮に入れているのかということである。下記は、僕の講演ファイルのスライドの1枚であるが、このことを考えれば、自己負担金導入に賛成する介護支援専門員って、わが身を粉にしてまで働こうとする覚悟のある人ではないかと思ってしまう。
講演ファイルより
居宅介護支援費の利用者自己負担を導入した後のことを想像した時に、滞納金徴収の催促のために、定期的なモニタリング訪問以上の回数の、利用者宅訪問しなければならない介護支援船専門員の姿がちらついてならない。

今でさえ忙しく働いている当法人の居宅介護支援事業所の介護支援専門員の姿を見ると、これ以上の業務負担をかけられないと思うし、上に記したようなことにならねばよいのだがと祈る気持ちでいっぱいになる。

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