措置制度から介護保険制度へという流れは、我が国の介護制度の戦後初の大改革という意味があった。それからさらに15年を経た今、介護保険制度も改正が繰り返され、その姿は制度創設当初と大きく違うものになりつつある

しかしその大きな変化の中でも、ほとんど変わってこなかったものがある。

それは特養を巡る景色である。

特養は常に満床で、かつ多くの待機者を抱えて、退所者が出ても新規利用者がすぐに入所して、利用者の確保に困ることはなく運営できることが当たり前であるという景色である。そして特養は、新規利用者の確保のために、営業回りも必要なく、黙っていても新規入所申し込みが絶えることはなく、待機者も減らないという景色である。

地域住民にとってその景色とは、特養に入所を申し込んでも、運が良くなければ入所できないという景色である。

しかしこの景色が大きく変わろうとしている。既に前述した景色ではなくなってきている地域も存在する。

例えば前回2012年の制度改正・報酬改定時に、それに合わせて高齢者住まい法が改正され、サービス付き高齢者向け住宅が創設された。それは地域包括ケアシステムの中での、新たな住まいとして、国の方針で建設補助金等が優遇されるという形で建設が促進された。その結果、全国にたくさんのサービス付き高齢者向け住宅が誕生することとなった。

しかも各地でサ高住の建設が勧められた結果、その供給過多によって、入居率が低下し、空き部屋が埋まらず、経営に支障を来たすサ高住も出てきて、身売りや入居費用のダンピングと言った状態が生まれている。

部屋代や、その他のサービス料金を値下げして入居者を確保しようとするサ高住が多い地域では、入居後の費用が、特養の費用とさほど変わらないというサ高住も数多く存在しており、サ高住と特養の顧客確保競争が行われている地域も見受けられるようになった。

そんな中で2015年介護保険制度改正・報酬改定において、特養の入所要件が厳格化され、要介護1及び2の対象者については、特例入所要件に該当しなければ入所対象とならず、原則特養の入所対象は要介護3以上とされた。

さらに安定経営には算定が欠かせない、「日常生活継続支援加算」の算定要件である、要介護4又は5の対象者が70%以上を占めるか、もしくは認知症自立度が薫幣紊梁仂歇圓65%以上を占めるという割合について、それまでは届け出日の属する前3月の末尾時点の割合の平均であったものが、「算定の属する月の前6ケ月もしくは前12ケ月の新規入所者の総数における割合」とされたことで、新規入所者の入所判定について、選択要件が狭まったという解釈が成り立つ。
(※ただし、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則第1条各号に掲げる行為を必要とするものの占める割合(たん吸引や経管栄養の方を全体の15%以上の割合)は従前と同じく、「前3月のそれぞれの末日時点の割合の平均」のままで変わりはない。)

こうして軽介護者は、自宅で暮らせなくなった際に、サ高住に住み替えるという流れが生まれ、そこで要介護状態が重度化しても外部サービスを利用しながらサ高住で暮らし続けるというケースも増えてきた。

それに加えて、特養の多床室の光熱水費の利用者負額の担引き上げや、多床室の室料負担導入と、補足給付の支給要件の厳格化(資産要件の導入と、世帯分離しても配偶者が課税であれば支給を認めないなどの変更)が行われ、入所者の自己負担増加につながっている。

そこではサ高住の入居費用+外部サービス利用料金とほとんど差がないか、むしろサ高住で暮らしたほうが、費用がかからないなどの逆転現象さえみられるようになった。

このように、特養には黙っていても入所希望者が集まるという状態ではなくなりつつあるのが現在の特定地域での状況であるが、それは全国的な状態変化へと拡大する方向にある。特養職員が地域への営業に回らないと、利用者確保ができずに空き部屋が生じ、経営困難となるという状況が現実的な問題となりつつあるのだ。

そのことはある意味、地域住民にとっては、要介護状態になった場合の暮らしの場の選択肢の拡大という意味で歓迎されることなのかもしれない。

そうであれば我々特養関係者は何をするべきなのだろうか?それは高齢者の暮らしの場の選択肢が広がっても、地域住民から選択してもらえる施設作りであり、そのことはサービスの品質向上でしか実現できない。

そしてそのサービスの品質については、サ高住と差別化できるサービスの質というものを意識する必要がある。それは何か?

もともとサ高住の売りは、「暮らしとケアが分離していること」である。両者の分離がなぜ売りになるかというと、それはサ高住とは、まず利用者の暮らしがあり、ケアは個人の暮らしぶりに合わせて多様に、柔軟に提供され、けっして画一的で集団的ではないという意味である。

そのことは特養に対する強烈な批判であるともいえ、特養は「暮らしとケアが分離していない場所」であるがゆえに、個人の暮らしの前に、施設の都合が存在し、そこでのサービスは画一的・集団的になりやすく、個人の尊厳や希望に配慮されたものではないという意味にも通じている。

しかし実際にはサ高住のケアが、利用者の暮らしに沿って個別の事情や希望に配慮して提供されているかというと、決してそうではなく、外部サービスの巡回時間などの都合に合わせたサービスであるという場合も多い。

しかし我々特養関係者は、そうした質の悪いサ高住と対抗する視点ではなく、サービスの質が高く、利用者の暮らしに沿ったサービス提供を行っている、サ高住と比較されても選択されるサービスの質を作っていかねばなたない。そうであれば、「暮らしの場と介護サービスが一体化されている」という批判的にみられている部分のメリットを生かして、「暮らしとケアが分離していない場所」であるからこそ可能となるサービスの質を作っていく必要がある。

それは例えば、突発的で想定外の状況に冷静に対応して、事故が起きないサービスであったり、尿便意を感じたときにリアルタイムに排泄ケアができるサービスであったり、最後の瞬間まで安心・安楽に傍らに寄り添うことができる看取り介護であったりする。(参照:看取り介護ができない特養であってはならない

どちらにしても、何もしなくても待機者を抱え、利用者確保に困らない特養という景色は確実に変わって行くという理解が必要で、その中での経営戦略が求められているという理解が必要である。

そして我々が顧客から一番求められるものは、サービスの品質と、その結果責任であるという本質を忘れてはならないということである。その切り札は、高品質な看取り介護の実践であると思う。

(追記)
看取り介護の実践方法と考え方を伝えるセミナーを、全国6ケ所で実施します。僕がそこで伝えたいことは、看取り介護とは決して特別なケアではなく、日常介護の延長線上にあるものであり、日頃の介護の質を高める努力と、高齢者の最晩年期の暮らしを護るという理念が求められるということです。そして看取り介護とは死の援助ではなく、人生の最終ステージを「生きる」ことをいかに支えるかが問われるものだということです。

勿論、看取り介護には医療的支援が欠かせませんが、それはあくまで緩和医療であり、治療的関わりではないし、対象者が旅立つ瞬間に医師や看護師が居なければできない対応ではないのです。これは「介護」であることを忘れてはなりません。

そういう意味で、このセミナーは、特養だけではなく、すべての介護保険施設、グループホームにも共通して参考にしてほしものだし、訪問看護や訪問介護で、看取り介護・ターミナルケアに関わる関係者にも聴いていただきたい内容になっています。

日程と会場は以下の通りです。

1/31・大阪 (田村駒ビル)
2/14・札幌 (札幌時計台ビル)
2/27・仙台 (ショーケー本館ビル)
3/26・名古屋(日総研ビル)
3/27・東京 (廣瀬お茶の水ビル・日総研研修室)
5/29・福岡 (第7岡部ビル・日総研研修室)


詳細と申し込みは、PDCAサイクル構築による命のバトンリレー・介護施設で「生きる」を支える看取り介護の実践をクリックしてご覧ください。「日総研 看取り介護の実践」 で検索してもヒットします。

時間はいずれも昼休み1時間を挟んで10時〜16時(5時間)です。未来につながる介護のヒントを得たい方は、是非会場までお越しください。

自施設の職員のモチベーションを上げ、定着率を高めたいと思っている施設経営者の方、介護事業経営者の方は、是非このセミナーに職員を派遣して、看取り介護を実践していただきたいと思います。

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