7月30日に厚労省が、2014年の日本人の平均寿命を公表した。

それによると男性は80.50歳(13年80.21歳)、女性は86.83歳(同86.61歳)でいずれも過去最高を更新したそうである。これにより女性の半数近くが90歳の「卒寿」を迎えるという。

しかし平均寿命とは、それが発表された年に0歳児として生まれた人が、今後平均何歳まで生きるのかという統計学上の数字であって、平均寿命が延びたからと言って、それ以前の過去に生まれた人の平均寿命が年々変わって行くわけではない。

今現在生きている人の平均寿命は、その人が生まれた年に出されたものがそのまま数字として残っているのだ。しかし平均寿命に達せずに亡くなる人もいるのだから、あと何年生きるのかということになると、その人が生まれたときの平均寿命−現在の年齢という数式にはならず、これも統計学上の数値を加えた数式によって導き出される。それが、「平均余命」である。

現在30歳の人の平均余命とか、40歳の人の平均余命とか、年齢別に示される平均余命が、今現在生きている人が、あと何年生きるのかという統計学上の数字である。

しかし平均寿命にしても、平均余命にしても、その統計学上の数値には、健康度は含まれていない。

果たして生命体として、「生きている」状態の年数の延びは、人にとってどのような意味があるのだろうか。

医学の進歩と自然死ということを、平均寿命の延びを考える中で、国民全体が議論する機会が増えてほしいと思う。

数年前に比べると、医療や介護の業界でも、終末期医療に関する考え方は少しずつ変わってきているように思う。延命が第一に考えられていた終末期医療に、少しだけ変化が見られてきて、口から物を食べられなくなった状態に対し、経管栄養を行うことが当たり前であるという意識に変化が見られているように思う。

口から物を食べられなくなっても、経管栄養によって栄養補給し、延命につなげるという考え方を完全否定する必要はなく、経鼻経管栄養や胃ろうという医療処置自体の是非を問う必要はないが、少なくとも個別にその適応を問う必要はあるだろう。

そういう意味では、経管栄養を行わない方が、安楽に過ごして自然死に向かうことができるという考え方が示され始めていることは健全な方向なのだと思う。そういう中で、終末期を迎える人が、そのことを選択できればよいし、そのためには、健康なうちに選択意思を示して、意思疎通が不可能な状態になっても、過去に示しておいた意思に沿った対応が行われることが保障されるべきである。

少なくとも、苦しみの多い状態で生きるということが当たり前であると考えられることがないようにしてほしい。呼吸し、心臓を動かすことがなによりも優先されるのではなく、出来るだけその人にとって苦しみの少ない状態で終末期を過ごすためにはどうすべきか、という考えが大切にされる社会が健全ではないだろうか。

経管栄養や中心静脈栄養により延命されている人が、たくさん入院している病棟で、そこで何が起きているのかを冷静に見つめることも必要だろう。

例えば、端がつまらないように気管切開され、チューブが入れられているとする。そしてそのチューブから痰の吸引を行う時に、その人がどんな表情をしているだろうか?ほとんどの人が苦しそうにしているはずだ。というより、そうした状態で苦しまない人がどれだけいるだろうか?

経管栄養の管を抜こうとする人の手を縛り付けて、ずっとその縛り付けられた手をほどこうとし続ける人に、経管栄養とは恵みを与えていると言えるのだろうか?身体拘束廃止の例外規定として、生命を守るための緊急一時的な拘束として、それが許されるとしても、そのことは手足を縛られる人の、「苦しまなくて済むようにしてほしい」という願いより優先されて考えてよいことなのだろうか?

そもそも人としての尊厳とはなんだろうか?単純に「死ぬ権利」を肯定するつもりはないが、せめて「苦しんでまで延命治療を受けなくて済む権利」、「苦しみの中で生かされ続けることを拒否する権利」は守られてよいのではないかと思う。

日本人の平均寿命とは、こうした状態で死なせてもらえない人の統計データが含まれているのである。しかもそれはほとんどの場合、本人が選択した結果ではなく、周囲の人が医師の言うがままに選んだ結果ではないだろうか。

そこをどう考えるべきなのだろうかということが、7/30の発表数字から問われているように思えてならない。

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