7月27日(月)付のNHKニュースWEBが、「介護施設送迎車の交通事故相次ぐ ことし10人死亡」と報道している。

しかしこの報道内容を読んで、首をかしげたくなることがある。

確かに通所サービスの送迎は、自家輸送であるとして白ナンバーでの送迎が認められ、運転手にも許可や資格は求められず、普通免許のみでも送迎は可能である。しかしそのことが事故を誘発しているかのような報道内容はいかがなものだろうか?

特に記事中に、「厚生労働省は安全確保のために、運転を専門とする事業者に委託することが望ましいとしています。」と書かれている部分があるが、これは事実誤認である。なぜコメントの裏を取るという報道の基本を踏まないのか、記者の良識を疑わざるを得ない。

これを読んだ一般の読者は、多くの通所介護事業者が厚労省の指導に従わずに、経費削減のために送迎を職員に行わせていると誤解するだろう。そしてそれは事業者が利益を優先して、人命をおろそかにしているのではないかという、大きな誤解を生むだろう。

しかしこの記事に書かれているような、「送迎の安全確保のために、運転を専門とする事業者に委託することが望ましい」などという国からの指導は、過去に一度も行われたことはない。そのような指導文書も存在しない.。

WAM-NET Q&Aには次のような解釈が示されている。

送迎を外部委託することについて
Q.利用者の送迎が、事業所が所有する車により自前で行われるのではなく、事業所が送迎を外部業者に委託すること(委託契約締結)により、外部業者の車で外部業者により行われる場合は、事業所により送迎が提供されているとは認められず、送迎加算は算定できないと判断してよろしいか。

A.通所介護事業所が、当該事業所に最終的な責任があることを前提として送迎部分について外部委託を行うことは可能である。従って、そのような場合には送迎加算を算定できるものである。 


現在、送迎加算は廃止されており、送迎費用は報酬包括され、送迎を行わなかった場合には、片道47単位の減算ルールがある。よって上記のQ&Aが摘要される費用はないが、送迎委託に関する基本的考え方は変わっていない。そしてその考えとは、「委託は可能」、「その場合でも当該事業所に最終的な責任がある」ことを示しているに過ぎない。

過去にいつ、厚労省が我々に、「安全のために送迎は外部の専門業者に委託するのが望ましい」という指導なり、提案なりを行ったというのだろうか。そんな事実は存在せず、通所事業者にとって、送迎を自前で行うことは当然のことであり、経費節減のために職員にそれを強いているのではなく、そもそも送迎を委託するという考え方自体が、「疑義照会しなければならないほど特別なこと」であるのだ。

送迎業務が、職員に著しいストレスを与えているかのような内容にも異議を唱える必要があるだろう。通所介護の職員募集の際には、運転免許の所持を条件に、利用者送迎業務に係ることを明示して募集している場合がほとんどだ。それに応じて応募してくる人の中から、採用された職員は、その後OJT等を通じて、教育訓練を受けながら、業務の一環として送迎にも携わっていくことになり、そのことが通所介護の業務と切り離して考えられたり、本来業務以外の仕事を押し付けられたりするように考える方がどうかしている。

通所サービスという性格を鑑みれば、利用者のご自宅と事業所間をスムースに適切に移動する支援も当然あってしかるべきで、それも業務の本筋と考えてよいものだ。利用者を送り迎えすることがストレスになる人は、通って利用するというサービス以外の職員募集に応募すればよいだけの話である。送迎に係る運転業務は、通所サービスにおいて本来業務であり、けっして付帯業務ではないのである。

当施設では、マイクロバスの運転は、大型免許を持つ特養の運転手等が行っているが、それ以外の車両は通所介護の相談員や介護職員で対応せざるを得ない。毎日4台以上の送迎車の運行が必要だからである。よって安全運転の意識は常に求められ、その指導も必要であるが、それはあくまでドライバーとしての基本技能以上のものを求められるわけではないだろうし、もしそれ以上のものが求められるとしたら、通所サービス自体が立ち行かなくなるだろう。

報道記事にも書かれているように、通所介護の利用者は、全国で185万人を超えている。しかも通所サービスの送迎とは、1ルートだけでカバーできるものではなく、毎日複数台の車両を走らせて対応できるものだ。これらの利用者をすべて運転を専門とする事業者に委託することなんて現実的ではないし、運転業務を専門とする職員を雇用したとしても、1人1ルートしか対応できない現実を考えると、そのような職員をすべてのルートに対応するような雇用が現実にできるわけがない。

財源論による給付抑制が続く中で、通所介護の送迎費用だけが特例で財源がつくわけがないのだ。さらに今後の通所サービスは、市町村の総合事業として、もっと財源を削ってお金をかけない中で行われるようになるのだ。そういう意味で、送迎に何らかの縛りをかけたり、免許や資格をあたらに求めるなどということは非現実的である。

僕もよく知る淑徳大学の結城教授がインタビューに答えて、「介護と送迎を分けて行うことができるよう、国が財政措置を含めた対策を急ぐ必要がある」と言っているが、数多くのうなづける提言をしている結城さんではあるが、この問題に関しては、通所送迎が複数ルートで成り立っているという現実をご存じではないように思う。その意見の通りの対策を取る場合、通所サービスは著しく高額なサービスにならざるを得ず、介護事業として成立しないだろう。

そうであれば、過去の送迎事故に関して正確な事故の状況分析を行い、同じ事故を繰り返さないために、送迎を行わざるを得ない通所介護事業所として、職員にどのような教育を行うべきかが見える形で示されなければならないと思う。その方が現実対応である。

今回のNHKの記事のように、介護サービスに対するネガティブ報道とも言ってよい、事実に基づかない不正確な報道は、百害あって一利なしである。そういう報道姿勢は正されなければならない。

そもそも送迎事故の中には、わき見運転や、スピード超過、信号無視など、ドライバ−として行ってはならない基本運転動作の違反とミスが目立っているのだから、プロの運転手ではなくてもできる、一般運転者の安全運行管理という方向から論じていかないと、通所サービスという形態そのものの存続がどうなのかという問題にすり替わってしまいかねないと思われる。

今後送迎中に事故を起こして、貴重な人命を奪わないために、事業者に何が求められるのかを真剣に議論することに異議はないが、職員による送迎で、事故を起こしていない事業者の方が、事故を起こしたことのある事業者よりもはるかに多い実態を鑑みたときに、特別な免許や事業許可が必要であるかのような議論の方向性はいかがなものかと思う。

通所サービス事業者は、こうした報道には強く異議を唱えていくべきだろう。

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