政府は15日、社会保障制度改革推進本部(本部長・安倍晋三首相)の専門調査会を開き、「団塊の世代」が全員75歳以上になる2025年時点で、全国の病院ベッド(病床)数を、現在の134万7千床の1割超に相当する15万〜19万床減らし、115万〜119万床を目指すとし、患者30万人程度は自宅などでの在宅医療で対応するとした。その目的は、病床の地域格差を是正し、医療費抑制を図る狙いであると報道されている。

確かに地域によってはベッドがすべて埋まらない病床がある反面、一方では近くに入院先がないというデコボコが生じているのだから、地域事情に鑑みた病床数調整は必要だろうと思う。社会的入院を減らす必要も理解できる。

しかし病院のベッド数を削減して、介護施設や自宅等で暮らす人々が増えたとき、医療費は削減できたとしても、介護給付費は増えるのは必然であるという報道が同時にされないと、これはミスリードと言われても仕方のない報道姿勢であると危ぶんでいる。

なぜならこのことは決して我が国の高齢者が、今後地域で豊かに暮らし続けるという結果をもたらすものではないと思えるからである。

病院のベッドを減らして、入院しない高齢者等が地域で暮らし続けるということは、医療費として支出していた分を、介護給付費に振り替えるだけの結果にしかならないのではないか?そしてその方針を推し進める背景には、医療にかけるお金より、介護にかけるお金の方が、単価を安く抑えられるという意図が隠されているという意味ではないのか?

そうであれば、そこに有能な人材を貼り付けて、品質の高いサービスを提供しようなどという視点はないと言って過言ではなく、団塊の世代が後期高齢者となり、介護サービスの必要性がピークに達する2015年からの約15年間は、安かろう悪かろうというサービスを使って、国民の我慢によって、なんとかその時期を乗り切ろうとするだけの政策と言えるのではないのか?

しかもこの方針によって、介護給付費は増大する一途をたどるが、それが国の財政悪化の元凶とされ、介護給付費の増加が医療費削減の結果であるということが国民にアナウンスされず、そうした認識がない方向に誘導されることによって、その増加を抑制する政策に正当性を与えるとしたら、介護サービスの単価自体は、現在よりさらに縮小させられる恐れが強い。じゃあ、その中で人材確保は可能なのか?無理だと言いたい。

そんな状態で、この国の高齢者は、老後を、人生の最終ステージに向かう時期を、豊かに過ごせるというのだろうか。

そこでは間違いなく、格差社会のひずみが生じて、生産労働世代に資産を残すことができなかった負の遺産が、老後から死ぬまでずっと引き継がれることとなり、金持ちは最後まで豊かな暮らしを送り、経済的弱者は死ぬまで我慢して最低限の暮らしで終始するという構図しか見えなくなる。

介護保険制度の意味も、金持ちにとっては、自分で利用できるサービスの基盤部分を形作るという意味にはなるが、経済的に余裕のない人々にとっては、それは命をつなぐための最低限のサービスとしての意味しかなくなるだろう。

さらにもう一つの大きな問題は、高齢者の死に場所がどうなるかということだ。現在我が国では8割以上の国民が医療機関で死を迎えている。

2030年までに我が国の死者数は、2010年と比べて40万人増えると言われているが、病院のベッド数が変わらない状態で、2010年より介護施設で2倍、自宅等の住まいで1.5倍の人を看取ったとしても、40万人すべての看取りの場の確保は困難である。そうした状況で病床数がさらに減るということは、国民がどこで死を迎えるのかという部分で、価値観の大転換が必要だ。

医療機関で亡くなるのが当たり前ではなく、自宅や介護施設などでどのように最期の瞬間を過ごすのか、その時にどのような支援体制が求められるのかが、地域包括ケアシステムの中の重要なテーマになる。

そこでは保健・医療・福祉・介護関係者が、地域住民と、死についてタブー視せず語り合う機会を持つ必要があるし、介護支援専門員をはじめとしたソーシャルワーカーは、単に死に行く人にサービスを結びつけ、訪問診療担当医師の指揮命令のもとに動くだけではなく、看取りの場での利用者と、その家族にとっての、真の意味での代弁者として機能していかねばならない。

時には対人援助の専門家・福祉介護サービスの専門家の立場から、利用者と家族のニーズに沿った支援方法についてのコンサルティングを、医療・看護の専門家に対して行っていく必要性もあるだろう。そのための専門知識を、今以上に磨いていく必要も生ずるだろう。

誰も経験したことのない、超高齢社会で、多死社会を迎える我が国では、想定外の状況に対して、それぞれの分野の専門家がタッグを組んで、知恵を出し合って最大限の支援機能を発揮させるということが求められる。

そういう意味からも、地域包括ケアシステムを、言葉だけではなく、実効性のあるシステムにしていくためにどうしたらよいのかという具体的取り組みが急がれているのである。

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