在宅で認知症の人を介護している家族の中には、いろいろな人がいる。介護に対する考え方も、認知症になった家族に対する思いもそれぞれだが、中には「介護の達人」と称してもよいような素敵な対応をしている家族もおられる。

それは誰から教えられたものでもなく、様々な形で認知症の家族と、その症状に向かい合う中で得てきた独自の方法だったりする。そしてその根底には、家族に対する深い愛情が存在している。そうなると、僕らはそれらの人に教えられるばかりで、物知り顔にアドバイスしても、自分の言葉が空虚に感じてられてしまうことさえある。

自分の夫の顔さえ分からなくなった認知症の奥さん。しかしその奥さんから、また今日もプロポーズされたと照れる夫。認知症の人の脅威にならずに、愛され続ける存在になるように対応することは、夫婦という最も近い関係であるがゆえにむずかしいことが多いが、ごく自然に認知症の人にとって一番信頼できる存在になっている夫の姿は凛々しくさえある。

我々は時として、認知症の人やその家族から学び取るという姿勢も必要とされる。我々が知っている方法論などは、積み重ねてきた家族の愛情深い関係性の前では、全く意味のないものに過ぎなくなる場面は少なくはない。その時に真摯に学ぼうとするか、無視して理解しようとしないのか、木で鼻をくくるかのような態度で臨むかによって、支援の質の差は広がるだろう。

家族の中には、自分の父母が認知症になったことにショックを感じる人も多い。まさか自分の親が認知症になるなんてと嘆く人もいる。それだけ親という存在は、子にとって頼るべき存在であるということで、そうしたショックや嘆きの感情を持つことを否定する必要はない。そこからいかに立ち直り、自分の親の認知症を受け入れて、認知症という症状があっても、その冠を取り払い、子として、人として、どうかかわるかということを理解していくことが大事である。

そうした経験を経て、認知症の人を介護している家族にとって、介護している親が認知症であったとしても、それは「認知症の親」ではなく、「親」なのである。

我々はそこを間違えてはならない。認知症についての正しい症状理解があることは大事だが、介護支援に当たって、支援対象者を常に「認知症」というフィルターをかぶせて見なければならないわけではない。その人の認知症の症状への対応は、混乱につながらないように症状理解したうえで対応すべきではあるが、その人との関係性は、人が人に向かい合う基本姿勢を貫くことでしか成り立たない。

そこにいる認知症の人は、認知症という状態にあるのかもしれないが、それはその人の存在を語るうえで唯一その存在を規定する状態ではない。その人には、それまで生きてきた生活歴があり、その中で培ってきた様々な人との関係性があり、その環境の中で存在している人として見る必要がある。

その人は、認知症の症状があるとしても、誰かにとっても親であり、祖父や祖母であり、愛する人なのだという理解が必要だ。そのことを決して忘れないでほしい。

認知症の人を家族に持つ人々が、抱く哀しみには様々なものだある。その中でも特に心に深く突き刺さることは、自分の親を、年端もいかない若い介護職員や看護職員が、子供に対するような言葉遣いや態度で接することだ。指示命令口調に終始し、年上の利用者であるという意識に欠けた対応に終始することだ。

それが介護施設であれ、医療機関であれ、居宅サービスの場であったとしても、哀しみの感情を、家族がストレートに介護支援者にぶつけることは難しいだろう。自分の抗議によって、人知れず誰もいない場所で、自分の愛する家族が虐待されるのではないかという不安を常に抱えているのが、家族という存在である。

表の掲示板の「ババって言ったことも憶えていない?」のケースのように、家族は、「職員に物申したら義母の待遇が悪くなったら困る」と考え、じっと我慢するしかないという実態があるのだ。そんなことを当たり前にしてはならない。介護サービスは人を傷つけるためにあるのではない。介護サービスは、人を哀しませるためにあるのではない。

人の暮らしと心を護り、笑顔を作る介護サービスではないと、その存在価値はなくなる。そのためにも、言葉や態度を崩すことが親しみやすさであると勘違いする風潮をなくしてほしい。認知症のことを。「ニンチ」などと略して表現し、家族がその物言いに差別感を抱くようなことをなくしてほしい。(参照:認知症をニンチと略すな

認知症の人と、その家族を蔑むような言葉や態度をなくしていかない限り、介護によって知らず知らずのうちに傷つけられる人はいなくならないだろう。そしてそれは、自分や自分の愛する誰かの身に降りかかってこないとも限らないのである。

介護のプロとして、誰かの暮らしを護る最前線に立つ職業に就いているという使命と誇りを護るために、どうぞ人を哀しませる人にならないようにしてください。

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