5/6、フジテレビがニュース番組の中で『ニッポンの死角 「お泊まりデイ」サービスについて取材しました。』という特集を組んで放映した。

このことについて関係者がSNSなどを通じて様々な意見を発信している。報道内容について、肯定的な意見、否定的な意見、様々な意見がある。

関係者から見ると、特集内容が表面的で浅い視点でしか捉えておらず、そこに潜む真の問題点が見えないという意見もみられるが、一般視聴者に向けた報道という意味を考えれば、それは仕方のないことだろうと思う。こうした番組で関係者が感心する深い内容になればなるほど、それは一般視聴者の興味とは、かけ離れたものにしかならないであろう。

そしてこうした報道で、世論の一部が形成されてしまうのも事実であり、それはこの国の実態の一つを現しているものだというしかないだろう。日本の報道は、この国の文化を代表せず、単に流行を代表するものだと考えた方がよいだろう。それはなにも介護問題に限ったことでもない。

そもそもそこには取材に協力している介護関係者が存在するという事実があり、その映像に映っている人が何を伝えようとしているのかも問われてくる問題である。

その特集では、お泊りデイについて、ニーズが高まる一方で、規制をかける動きもあり、一部の利用者に困惑が広がっているという方向で問題が提起されており、厚労省が4/30に示した「指針案」について、夜間の定員や職員の人員配置のほか、男女を同じ部屋に宿泊させないことなどが明記され、さらに連泊については、「緊急時、または短期の利用に限る」として、長期連泊に一定の歯止めをかける方針を打ち出した、と紹介している。

そのうえで、お泊りデイを長期間利用している人の現状を紹介し、そうしたニーズも存在することを示唆したうえで、「お泊まりデイ」をめぐる、介護の現場と行政の認識のずれがあるのではないか、「理想の介護」とは何なのか、と問題提起している。

取材を受けている通所介護職員等も、新たな規制で利用者ニーズが置き去りにされかねないという危機感を訴えている。

しかし僕に言わせれば、今回のガイドライン(指針案)は、決して制限というような内容ではない。

長期利用については、確かに制限がかけられているものの、期間も限定してはいないし、やむを得ない事情による特例も認めている。その場合に求められる、「居宅介護支援事業者との連携による、他のサービス利用も含めた適切なサービス提供の検討」などは、ガイドラインが存在しなくとも、利用者の暮らしの質を護るために当然行わねばならないことであり、これによって必要な長期利用ができなくなるということにはならない。あくまで必要性を適切にアセスメントするということが念押しされたに過ぎないし、裏を返せば、そこでは過度なサービスの掘り起しと、必要性の薄い長期利用と、それに伴う通所介護の連続利用が横行していたという実態があるのではないだろうか。そこにメスを入れざるを得ない状況が存在したということである。

そのほかの設備基準や人員配置基準については、制限ではなく、最低限のサービスの質の担保を目指した標準化という意味でしかない。それも裏を返せば、こうしたガイドラインを作らざるを得なくした実態が存在したということである。人間性を無視した住環境での、長期宿泊利用があったのではないだろうか。

どこの世界に、よい大人の他人同士を、男女の別なくして、本来は居住空間ではない場所に雑魚寝させて良い世界があるというのか。こうした状況が、いつまでもゼロにならなかったということが、ガイドラインの作成によるルール作りが必要とされた理由であり、一部とはいえ、人の暮らしを支援するという視点に欠ける事業者があり続けた責任は否定できない。

今回の制度改正では、お泊りデイにおける事故報告を義務付けているが、これについても背景要因があり、2014年1月の新聞報道によれば、全国の政令市と県庁所在地、東京特別区の計74市区にある宿泊サービス付きの通所介護事業所の「お泊りデイ」で、宿泊時間に起きた転倒や誤飲などの事故は、2010年度 以降少なくとも296件あり、26人が死亡していたことが読売新聞の調査で明らかになっている。

26人の死亡人数とは、自然死ではなく、介護事故による死亡者数である。それがわずか4年間で、お泊りデイサービスという一つの事業の中で26人もの死者数を出しているというのは尋常ではない。

保険外のサービスとは言え、これだけの事故件数と死者が出ている現状を考えると、運営基準や人員基準を設定して、サービスの質の担保を図ろうとするのは当然だし、指定介護保険事業所の中で、介護事故が繰り返されないように、事故報告を義務付けることも必要なことであったろう。

そう考えると、お泊りデイに対する制度改正でのルール変更やガイドラインの設定は、必ずしも厳しい制限であって、国民ニーズからかけ離れたんものという批判には当たらないのではないかと思う。

法律の網の目をくぐって、人権を無視したような状態を作り出す人間が、一部でもいる限り、国は利用者を護るために、法律の網の目を細かくせざるを得ない。そういう状況を、自助努力でなくせなかったことの反省を今後に生かすための検証こそ、求められることではないのだろうか。

マスコミも、ガイドラインの整備をはじめとしたルール変更を、単純に利用者ニーズに沿わない制限だと糾弾する前に、宿泊スペースとして、人が安眠できる環境への配慮がない劣悪な場所での長期宿泊が行われていることについて、なぜそうした場所に泊まらなければならない人がいるのか、ショートステイという社会資源があるのに、なぜ保険外の宿泊サービスを長期利用して、毎日のように通所介護を利用しなければならない人がいるのか、医師配置基準のあるショートステイと、医師配置も求められず、今までは配置人員の規定も、設備基準の規定もない場所で、実質ショートステイと同じようなサービスが行われていることの整合性は取れるのかなど、問題提起することはもっと別にあるだろうと言いたいのである。

個人的な意見としていえば、フジテレビは、北海道文化放送(UHB)を通じて、僕とパイプがあるのだから、なぜ一言コメントを求めないのだとも思ったりするのである。

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